営業ヒアリングが浅い時は事実と困りごとを分けて聞く
浅く終わる質問を深める順番
営業ヒアリングで相手が話してくれているのに、商談後に中身が薄く感じることがあります。状況は聞けた。困っているとも言ってくれた。けれど、提案書を書こうとすると、何を優先すればよいのか決めきれない。そんな経験はありませんか?
水野大輔さん(仮名、工場向け新人定着研修を提案する営業担当者)は、初回商談でたくさん質問していました。参加人数、研修時期、予算感、対象部署。項目は埋まります。ところが、提案前になると、相手が本当に困っている場面が見えていませんでした。
原因は、事実、困りごと、次の確認を分けずに聞いていた点でした。質問の数は足りています。相手が新人の定着で困っていると話した時、水野さんはすぐ研修内容の説明に入りました。どの場面で定着が難しいのか、誰が困っているのかを聞く前に、提案側の話をはじめていたのです。
営業ヒアリングが浅い時は、質問を増やす前に事実、困りごと、次の確認を分けて聞きます。この三語を混ぜないだけで、相手の話は提案に使える材料へ変わります。
ヒアリングの深さは、相手の言葉をどこまで具体的な場面に戻せたかで決まります。この記事では、浅い質問を深めるために、事実、困りごと、次の確認をどう扱うかを解説します。
こんな人におすすめの記事です。
- 質問項目は埋まるのに提案の中身がぼやける方
- 相手の困りごとを聞いたつもりでも優先順位を決められない方
- 初回商談の後で追加確認ばかり増えてしまう方
これから一つひとつ見ていきましょう。
項目だけが埋まる商談
水野さんの商談ノートには、情報が多く残っていました。対象は新入社員、時期は10月、参加人数は20名、予算は未定。見た目にはヒアリングできているように見えます。
ただ、提案に入ろうとすると迷います。新人の定着が難しいとは、入社直後の不安なのか、配属後の現場対応なのか、上司との面談なのか。そこが分からないため、研修テーマを決められません。
営業側が聞きやすい項目だけを並べると、相手の現場は見えません。項目は整理されていても、困っている場面が薄いまま残ります。
水野さんは、質問数を増やして解決しようとしました。研修経験、過去の実施内容、他部署の状況も聞きました。それでも提案は広がるばかりで、絞れませんでした。
設備工事の提案営業をしている方と、私は面談でロールプレイングをしました。この方は、質問が単発のやり取りで終わり、相手が考えるより先に次の質問へ進んで、現状をつかみきれないまま提案を急いでいたのです。その後は日常の会話でも相手の考える速さに合わせて問うようになり、初対面の相手や職人とも打ち解けられるようになったと聞きました。
三語を混ぜない聞き方
浅く終わる商談では、事実、困りごと、次の確認が一つの質問に混ざりがちです。水野さんは「新人研修で困っていることは何ですか?」と広く聞いていました。相手は答えますが、答えが広すぎます。
| 聞く対象 | 聞く一言 |
|---|---|
| 事実 | 直近で起きた場面を聞く |
| 困りごと | その場面で誰が困ったかを聞く |
| 次の確認 | 提案前に確かめる一つを聞く |
表と本文の組み合わせは、後の例でも変えません。事実を聞く時は直近で起きた場面を聞きます。困りごとを聞く時は誰が困ったかを聞きます。次の確認では提案前に確かめる一つを聞きます。
水野さんの案件なら、まず直近で新人が辞めそうになった場面を聞きます。次に、その時に困ったのは新人本人なのか、現場リーダーなのか、人事担当者なのかを聞きます。最後に、提案前に確認すべき一つを決めます。
事実、困りごと、次の確認を分けると、相手の抽象的な悩みが商談で扱える場面になります。
新人研修で止まった会話例
水野さんは、次の商談で聞く順番を変えました。研修内容を説明する前に、相手が話した新人定着の悩みを具体的な場面に戻しました。
水野さん「新人の定着が難しいと伺いました。直近でその難しさが出た場面はどこでしたか?」
担当者「配属後の二週間です。現場で質問できず、抱え込む人がいました」
水野さん「配属後の二週間ですね。その時に一番困ったのは新人本人ですか? それとも現場リーダーですか?」
担当者「現場リーダーです。声をかけるタイミングが分からなかったようです」
この会話では、配属後の二週間、現場リーダー、声をかけるタイミングという言葉を変えません。後段でも同じ言葉を使います。新入社員オンボーディング、管理職コミュニケーションなどに広げすぎると、担当者が話した場面から離れます。
水野さんは、そこで研修メニューを並べませんでした。次に聞いたのは、提案前に確認すべき一つです。
水野さん「提案前に一つだけ確認したいです。現場リーダーが声をかけにくかったのは、忙しい時間帯でしょうか? それとも、最初の声かけが分からなかったことでしょうか?」
担当者は「最初の声かけが分からなかったことです」と答えました。これで提案の中心は、現場リーダーが新人に聞く一問に絞れました。
水野さんは、この会話を次回のロープレ材料にも使いました。現場リーダー役の人に新人役へ声をかけてもらい、最初の一問だけを練習します。練習で使うのは、配属後の二週間に現場で出る一問だけです。担当者はその場で「これならリーダーに渡せます」と言い、翌週の現場会議で試す日を自分で決めました。
ロープレで扱ったのは、新人が黙っている時の一問です。現場リーダー役が「今の作業で止まっているのは手順ですか? それとも確認相手ですか?」と聞き、新人役がどちらかを選ぶところまで練習しました。現場リーダーが使う一文まで決めると、ヒアリングで聞いた話が研修内容へつながります。
提案前に増やさない質問
ヒアリングが浅いと感じると、営業側は追加質問を増やしたくなります。けれど、追加質問が多すぎると、相手はまた一から説明しているように感じます。
水野さんは、商談後にメールで五つの追加質問を送っていました。対象部署、過去研修、離職人数、上司面談、評価制度。どれも大事ですが、担当者にとっては負担です。
今は、配属後の二週間、現場リーダー、声をかけるタイミングに関係する質問だけを残します。たとえば、「現場リーダーが新人に最初に聞く一問を作る研修でよいか」を確認します。
浅いヒアリングを直す時ほど、質問を増やさず、すでに出た言葉を深く聞きます。
商談後に残す記録
水野さんは、商談後の記録の書き方も変えました。以前は、聞いた項目を箇条書きで残していました。今は、事実、困りごと、次の確認の三語で分けます。
- 事実:配属後の二週間で新人が質問できず抱え込んだ状態
- 困りごと:現場リーダーが声をかけるタイミングをつかめなかった状態
- 次の確認:新人に最初に聞く一問を研修で扱うかどうか
この三語は、提案書でもQ&Aでも変えません。途中で、発生事象、課題、アクションなどへ言い換えません。相手が使った言葉に近い表現で残すと、次回商談でも戻りやすくなります。
記録を分けると、提案書の冒頭も変わります。「新人研修のご提案」ではなく、「配属後の二週間に現場リーダーが最初の一問を聞けるようにする研修」と書けます。担当者は、読んだ瞬間に自分の現場だと分かります。
水野さんは、提案書の中にも三語を残しました。事実には配属後の二週間、困りごとには現場リーダーの声かけ、次の確認には研修で扱う一問を書きました。担当者は社内で説明する時に、現場の困りごとから話せます。
この形にすると、提案前の追加確認も減ります。聞くのは、担当者が社内で説明するために必要な一つだけだからです。水野さんの場合は、現場リーダーが新人に声をかける時間帯だけを最後に確認しました。
次回商談で最初に戻る場所
次回商談では、前回の三語からはじめます。水野さんは「前回は、配属後の二週間、現場リーダー、声をかけるタイミングを確認しました」と一文で確認しました。
担当者は「そうです。現場リーダーが遠慮していました」と答えました。水野さんは、その言葉も急いで言い換えませんでした。遠慮していた、という表現を受けて、研修内で扱うロープレを組み立てました。
この順番にすると、商談は前回の続きとして進みます。毎回新しい質問からはじめる必要がなく、相手も自分の話が扱われていると感じます。
ヒアリングを深くするとは、相手が出した言葉を事実、困りごと、次の確認に分け、次回も同じ言葉で戻れるようにする作業です。相手を長く話させた時間は、深さの目安になりません。
もし相手が別の話題を出した場合も、三語に戻します。離職人数の話が出たら、それは事実として扱うのか、困りごととして扱うのかを決めます。研修テーマを増やす前に、前回の三語に足すべき話かを見ます。
水野さんは、商談の終わりに担当者へ確認しました。「次回は配属後の二週間に使う声かけを見ます。この理解で進めてよいですか?」担当者は「それなら現場に説明しやすいです」と答えました。ここまでそろうと、次の提案は相手の現場に合います。
営業Q&A
営業ヒアリングでは質問項目を多く用意した方がよいですか?
漏れを防ぎたくて、質問表を細かく作りたくなる場面です。
回答
質問項目は役に立ちます。ただし、項目を埋めるだけで終えないでください。出てきた言葉を事実、困りごと、次の確認に分けると、提案に使える内容になります。
相手が抽象的に困っている時はどう聞けばよいですか?
相手が「うまくいっていないです」と広く話す場面です。
回答
直近で起きた場面を聞きます。その後、誰が困ったのかを聞いてください。場面と困った人が分かれば、次に確認する一つを決めやすくなります。
次に戻れる三語
営業ヒアリングが浅い時は、質問を増やす前に事実、困りごと、次の確認を分けます。三語を混ぜずに聞くと、相手の悩みは提案書に使える場面へ変わります。
- 直近で起きた場面という事実
- その場面で困った人という困りごと
- 提案前に確かめる一つという次の確認
次の商談では、相手が出した悩みにすぐ説明で返さず、「直近で起きた場面はどこですか?」と聞いてください。そこから誰が困ったのか、提案前に何を確認するのかを一つずつ決めましょう。
木村 守(逆転営業アカデミー 営業スキルUPコンサルタント)
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