聞こえにくいお客様との商談|筆談と話し方を本人の希望に合わせる
声を張る前に確かめる伝え方
商談でお客様から「少し聞こえにくいです」と言われた時、あなたはどうしていますか? 同じ説明を大きな声で繰り返しても、話が伝わるとは限りません。まず、お客様が話しやすい方法を尋ねます。正面で話す、文字で示す、場所を変える。その選択を、お客様と一緒に決めるところから商談を続けましょう。
聞こえにくさへの対応を理由に、商品を選ぶ目的まで営業側が決めてしまうと、お客様の希望が置き去りになります。伝える方法を変えても、何を望んでいるかを聞く相手はお客様ご自身です。付き添いの方がいる時も、この順序は変わりません。
こんな人におすすめの記事です。
- 聞き返されるたびに声を張っている方
- 筆談で商品を案内する時の書き方に迷う方
- 付き添いの方にばかり説明してしまう方
これから一つひとつ見ていきましょう。
お客様ごとに異なる話しやすい方法
聞こえにくいといっても、会話に使いたい方法は人によって違います。声で話す方も、筆談を使う方も、手話を使う方もいます。営業担当者が外見や年齢から決めるより、ご本人に尋ねるほうが確実です。
たとえば「お話しする時は、文字でお伝えするほうがよろしいですか?」と尋ねます。口頭の質問が伝わりにくければ、同じ内容を紙に書いて見せましょう。筆談を選んだ方には、返事を書けるように紙とペンを渡します。営業側だけが文章を書いて見せ続けると、お客様が希望を伝える番がなくなってしまいます。
神奈川県の案内は、コミュニケーションには様々な方法があり、補聴器を使っていても会話をきちんと聞き取れるとは限らないと説明しています。聞こえ方は場面で変わるため、今のやり取りがしやすいかを都度尋ねます。お客様の返答を確かめながら続けましょう。
逆転営業のレッスン資料では、営業コミュニケーションを「好意・質問・共感」のサイクルで説明しています。この場面でも、手段の確認だけで接客を終えず、伝えてくださった希望を受け止め、商品についての相談を聞きます。筆談になったからといって、一方的な説明型の営業に戻るわけではありません。
正面で話せる席と周囲の音
声での会話を希望された時は、お客様から顔が見える位置で話します。商品を見ながら横を向いて説明したり、棚の奥から声をかけたりすると、口の動きや表情を見てもらえません。商品を指す時と、お客様に向かって話す時を分けるだけでも、話を追いやすくなります。
厚生労働省の案内は、ゆっくり、言葉をはっきり話すこと、正面から口の動きを見せること、聞きやすい環境への配慮を挙げています。商談でも、テレビの音や店内放送が重なる席なら、音の少ない場所への移動を提案できます。移動する際は、先にお客様の希望を尋ねてください。
声を大きくすることだけに頼ると、お客様が求めていた対応から外れるおそれもあります。高齢・障害・求職者雇用支援機構の手引きは、音量を上げるとかえって苦痛になることもあるとしています。声量を上げる前に、「この声の大きさでお話ししてよろしいですか?」と確かめましょう。
出典:高齢・障害・求職者雇用支援機構「5.障害特性と配慮事項(2)聴覚障害」
営業側に同僚がいる時は、説明を交代する前に誰が話すかを伝えます。二人が同時に補足すると、お客様は顔や資料を見比べながら、別々の説明を追わなければなりません。ひとりが話し、もうひとりは必要な商品の準備をする。その役割分担を先に決めれば、お客様が返答する時にも話が重なりません。
筆談でも残す商品の条件と質問の意味
神奈川県の案内は、筆談では文章を短く簡潔にし、用件を的確に伝えるよう勧めています。営業で短く書く時も、商品名だけを並べたり、質問を単語だけにしたりする必要はありません。何を尋ねているか、お客様が読んで答えられる文にします。
たとえば、靴の販売で「用途?」と書くだけでは、仕事か休日かを聞いているのか、歩く距離を聞いているのかが曖昧です。「この靴は、どんな時に履きたいですか?」なら、お客様が自分の使い方を答えられます。お客様の文章を読んでから、必要なことを一つずつ聞き足しましょう。
以下は、靴店での架空のロープレです。
加藤卓也さん(仮名、紳士靴専門店の販売担当者)は、筆談を希望するお客様に通勤用の靴を案内しています。お客様は、歩きやすさと見た目の両方を気にしています。
加藤さん「通勤では、どのくらい歩きますか?」
お客様「駅から会社まで歩きます。雨の日に滑るのが気になります」
加藤さん「雨の日に滑るのが気になるのですね。今の靴では、どんな場所で滑りそうになりますか?」
お客様「駅の入口の床です。会社ではスーツに合わせたいです」
このやり取りは、紙に書いて読み合う形でも成立します。加藤さんが先に底の材質を説明し続けると、スーツに合わせたいという希望を聞きそびれます。お客様が文章を書ける時間を取り、返答を読んでから次の質問を考える。その順序なら、靴底だけで商品を選ばずに済みます。
筆談を短くする時に削るのは、質問への答えに不要な前置きです。商品の条件まで消すと、別の意味になってしまいます。「滑りにくさに配慮した靴底」と「滑りません」は同じ説明ではありません。後者のような保証に言い換えず、実際の商品表示にある条件を示してください。
価格を書くなら、税込かどうか、何に対する金額かも添えます。取り寄せの日数を伝えるなら、その日数が入荷までか、受け取りまでかが分かる書き方にします。長い挨拶を短くすることと、選ぶために必要な情報を省くことは別なのです。
文字でやり取りするのが負担だと言われたら、実物や写真を指して選べるようにする方法もあります。たとえば、幅の違う靴を並べて試した感想を伺う時には、商品と説明を対応させます。どちらを指したかが分かる位置に置けば、お客様は長い文章を書かずに比較できます。文字だけでの説明にこだわらず、伝わりやすい方法をご本人に選んでいただきます。
紙や画面を見る時間も接客の時間です。読んでいる途中に別の候補を出されると、説明と商品を見比べ直す負担が増えます。読み終えたか分からなければ、次の説明へ進めてよいかを尋ねましょう。お客様が読み終えるまで営業側が待つ練習も、商品知識を覚える練習と合わせてできます。
一枚の紙を商品説明で埋める前に、お客様が書いた希望を一緒に読み返します。加藤さんなら、雨の日の床とスーツの二つの条件に合う候補を示してから、お客様に感想を尋ねます。購入を急いで勧めるより、自分の希望に合うかをご本人が考えられる説明を優先します。
付き添いの方がいる時の本人への問いかけ
付き添いの方が返答してくださると、営業担当者もその方に向かって話し続けやすくなります。ただ、商品を使う方と付き添いの方とでは、気になることが違うかもしれません。まず、ご本人が希望するやり取りの方法を確かめ、その方法で商品の希望を尋ねます。
たとえば、付き添いの方が「こちらのほうが楽でしょう」と勧めても、ご本人は色や形を比べたいのかもしれません。ご本人に商品の写真や実物を示し、選びたい点を尋ねましょう。返答に時間がかかっている間に、付き添いの方との会話だけで候補を決めてしまうと、ご本人の考えを聞く機会がなくなります。
ご本人が付き添いの方を通じたやり取りを希望された場合は、その希望に合わせます。誰を通じて話すかを営業側の都合で固定せず、お客様が選んだ方法を尊重するわけです。途中で文字を併用したくなった時も、使いやすい方法に変えられます。
内閣府の具体例データ集でも、筆談や手話など目で分かる方法、発言が重ならない話し方が挙げられています。商談に当てはめるなら、説明する側の人数を増やすより、お客様が情報を確かめ、意見を伝えられる状態を作ることが先です。
営業Q&A
聞き取れない返答を何度も尋ねてよいですか?
筆談と口頭を併用して接客しています。お客様の返答を一度で聞き取れず、再び尋ねると失礼になりそうで迷っています。商品のサイズを確認したいのですが、自分の聞き取った内容でよいか自信がありません。
回答
聞き取れた部分と、確かめたい部分を分けて尋ねます。「サイズの数字をもう一度、文字で教えていただけますか?」なら、返答の全部を言い直してもらわずに済みます。数字を書いていただいたら、その表示を一緒に見て確認しましょう。
分かったつもりで商品を取り寄せると、お客様の希望と違うサイズを手配しかねません。相模原市の案内も、音声だけでなく、筆談やスマートフォンのアプリなど様々な方法を使うよう伝えています。お客様だけに何度も言い直してもらう前に、紙や画面など、お互いに確かめやすい方法へ切り替える提案ができます。
出典:相模原市「聴覚障がい」
お客様が返答できる準備の確認
聞こえにくいお客様との商談で、伝え方と相談の進め方を解説しました。お客様が希望を伝えられることまで確かめて、はじめて双方向のやり取りと言えます。紙を用意するだけでなく、書いて返せる場所と時間も確保します。
- ご本人が希望するやり取りの方法
- 顔が見える位置と周囲の音への配慮
- 商品の条件を省かない筆談
次の接客前に、説明する紙を自分の側に置いたままになっていないか見直してみませんか? お客様にも返答を書く場所があれば、使い方や気になる点を、お客様自身の言葉で教えていただけます。
木村 守(逆転営業アカデミー 営業スキルUPコンサルタント)
最新記事 by 木村 守(逆転営業アカデミー 営業スキルUPコンサルタント) (全て見る)
- 見積の入数と注文数量の違い|受注前に確かめる単位と合計個数 - 2026年10月30日
- 聞こえにくいお客様との商談|筆談と話し方を本人の希望に合わせる - 2026年10月29日
- 通訳が同席する商談での話し方|短く伝えてお客様の返答を待つ - 2026年10月28日

