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営業で相手が迷う時は選ぶ理由より避けたい失敗を聞く

「考えます」の先にある一問

商談の終盤で、相手が迷う場面があります。商品やサービスには興味がある。金額も理解している。けれど、「もう少し考えます」と言われる。営業側は、どこを押せばよいのか分からなくなります。

篠原和真さん(仮名、看板制作の営業を担当)は、相手が迷うとメリットをもう一度説明していました。文字の見やすさ、素材の耐久性、施工後の印象の変化。相手に良さを思い出してもらえば決めやすいと思っていたのです。

しかし、担当者は資料を閉じながら「悪くはないのですが、社内で少し考えます」と答えました。篠原さんは、良さの説明はできていましたが、相手が避けたい失敗を聞けていませんでした。

営業で相手が迷う時は、選ぶ理由を足す前に、避けたい失敗を一つ聞きます。迷っている人は、良い理由だけでなく、失敗した時の説明も心配しているからです。

相手の背中を押すより、相手が避けたい失敗を一緒に言葉にする方が、決める材料を作れます。この記事では、迷う相手に押さずに聞く一問を解説します。

こんな人におすすめの記事です。

  • 相手が迷うと、つい説明を増やしてしまう
  • クロージングで最後の一押しの言葉が出てこない
  • 稟議や上司説明で止まる相手に、何を聞けばよいか迷う

これから一つひとつ見ていきましょう。

良さを足しても決まらない理由

相手が迷っている時、営業側は良さが伝わっていないと考えがちです。だから、導入事例を追加したり、他社との違いを話したり、割引条件を出したりします。

もちろん、情報が足りない時もあります。ただ、迷いの中心が「選ぶ理由」から外れている場合、良さを足しても決まりません。相手は、選んだ後に失敗したらどう説明するかを考えています。

看板制作なら、設置後に通行人から読まれなかったらどうするか。夜に見えにくかったらどうするか。既存の外観と合わずに店の見た目がちぐはぐになったらどうするか。こうした不安が消えていないと、デザインが良くても相手は止まります。

篠原さんは、以前なら「施工後の確認まで対応します」と説明していました。担当者はうなずきます。けれど、相手が避けたい失敗はまだ言葉になっていません。

篠原さんが、ある商談の録音を一本持ってきました。担当者が「夜の見え方が気になっていて」と言った直後、篠原さんは素材と照明の説明をはじめています。私が「ここで一度止めましょう」と言うと、篠原さんは「不安に答えたつもりでした」と話しました。

私は、その先の10分をもう一度再生しました。説明が続く間、担当者の返事は「はい」「そうですね」だけになり、質問は一つも出ていません。篠原さんは「聞いてもらえていると思っていました」と言いました。ここで「夜に出した後で、特に困りそうな点はどこですか?」と聞けていれば、担当者は上司から出そうな指摘を話せたはずです。篠原さんはその場で、次の商談では説明より先に避けたい失敗を聞くと決めました。

迷いの正体は、商談の最後だけに出るとは限りません。中盤で「夜は人通りが少ない」「上司が色に細かい」「前の看板で苦情があった」といった言葉が出た時点で、相手は避けたい失敗を半分話しています。篠原さんは後から録音を聞き返し、自分が説明を足した場所に印を付けました。すると、相手が失敗を心配する言葉を口にした直後ほど、自分が説明で埋めていたことに気づきました。

避けたい失敗を聞く一問

迷う相手に聞く一問は、難しくありません。

「今回選ぶとして、一番避けたい失敗は何でしょうか?」

この一問は、相手を責める言葉にしません。むしろ、相手が決めにくい理由を一緒に見つける言葉です。

篠原さんは、次の商談でこの一問を使いました。

篠原さん「デザインの方向性は悪くないと感じていただけたのですね。今回選ぶとして、一番避けたい失敗は何でしょうか?」
担当者「夜に出した時、店名が読みにくいと言われることです」
篠原さん「夜に店名が読みにくいと言われることですね。では、施工前に夕方の見え方まで確認しておく必要がありますね」

ここで初めて、提案の中心が変わりました。デザインの良さの説明から、夜でも読める見え方を一緒に見る流れに移ったのです。

押しに見える言葉

相手が迷う時に押しに見えやすい言葉があります。「皆さん導入されています」「効果は出ています」「今決めるとはじめやすいです」。営業側は安心材料として話していますが、相手には決断を迫られているように聞こえます。

篠原さんも、迷う相手に「他社でも反応が良いです」と話していました。情報としては間違っていません。それでも、担当者が心配しているのが夜に店名を読めるかどうかなら、他社の反応を聞いても不安は消えません。

迷う相手には、押す言葉を増やすより、避けたい失敗を聞きます。相手が失敗を言葉にできると、営業側も対策を一緒に考えられます。

クロージングの役割は、決める前に残った不安を一緒に見るところにあります。

社内説明に変える聞き方

避けたい失敗が分かったら、次は社内説明に変えます。相手が言った言葉を、稟議や上司説明で使える形にします。

担当者が夜に店名が読みにくいことを心配したなら、社内説明では「夕方の見え方を施工前に確認する」と書けます。色が派手すぎる不安なら、「既存の外観写真に当ててから最終色を決める」と書けます。

篠原さんは、提案書の冒頭を変えました。以前は「視認性を高める店舗看板」と書いていました。今は「夜でも店名が読めるよう、夕方の見え方を施工前に確認する」と書きます。

この変更後、担当者の動きも変わりました。担当者は上司に説明する前に、「この夕方の見え方の画像を店長会議で見せてもよいですか?」と聞いてきました。良さを聞くだけの姿勢から、社内で使う言葉を確認する動きに変わったのです。

私はこの一言を、提案が相手のものに変わった合図として聞きました。担当者が「見せてもよいですか?」と聞いた時点で、看板案は担当者自身が社内に持ち込む材料になっています。避けたい失敗を聞く一問は、相手を不安にさせるためより、相手が自分の言葉で説明できる状態を作るためにあります。

分類より先に聞く相手の言葉

迷いをすぐ金額、時期、決裁者に分けると、便利に見えます。ただ、相手の言葉を聞く前に分類すると、商談は営業側の都合に寄ります。

篠原さんは、迷いを先に分類するのをやめました。まず相手に避けたい失敗を聞きます。その答えを聞いた後で、金額の問題なのか、時期の問題なのか、決裁者の問題なのかを見ます。

たとえば、担当者が「夜に店名が読みにくいかもしれない」と言ったなら、迷いの中心は照明や文字の大きさです。担当者が「外観に合わないかもしれない」と言ったなら、素材だけでなく既存の壁色との見え方が迷いです。

分類は後で構いません。先に聞くのは、相手の言葉です。

明日の商談で使う短い流れ

明日の商談で使うなら、次の流れで十分です。

一つ目に、相手が迷っていることを認めます。「決めにくい点があるのですね」。二つ目に、避けたい失敗を聞きます。三つ目に、その失敗を防ぐ条件を一つだけ一緒に決めます。

篠原さんは、この流れに変えてから、相手が「検討します」と言った後の会話が短くなりました。会話を切ったのではなく、迷いの中心が見えたので、余分な説明を足さなくなったからです。

担当者も、持ち帰る内容が変わりました。以前はデザイン資料一式を持ち帰っていました。今は、夕方の見え方の画像だけを持ち帰ります。社内で話す材料が具体的になったのです。

篠原さんが次回へ持ち越す確認事項も変わりました。以前は「デザイン説明済み」「施工事例共有済み」「次回検討」と並べていました。今は「避けたい失敗は夜に店名が読みにくいこと」「対策は夕方の見え方を施工前に確認すること」の二つだけを書きます。次回の連絡でも、その二つから話をはじめられます。

次回連絡の言葉も変わりました。以前なら「その後、ご検討は進みましたか?」と聞いていました。今は「夕方の見え方の画像について、上司の方はどう受け止められましたか?」と聞きます。相手は検討中という広い返事をする代わりに、社内で起きた会話を話せます。

営業Q&A

避けたい失敗を聞くと不安をあおりませんか?

相手に失敗を思い出させることへの不安です。

回答

聞き方を責める形にしなければ大丈夫です。「失敗しそうですか?」と迫らず、「選ぶなら、特に避けたい点はどこですか?」と聞きます。相手が決める前に整理したいこととして扱います。

相手が失敗を答えられない時はどうしますか?

相手も迷いを言葉にできていない場面です。

回答

無理に答えを求めません。「では、社内で反対が出るとしたら、どの点が心配されそうですか?」と聞きます。本人の不安より、社内で出そうな声から聞くと答えやすくなります。

社内で話せる対策に変える一問

営業で相手が迷う時は、良さを足す前に、避けたい失敗を一つ聞きます。その聞き方を解説しました。いかがでしたか? 押さずに決めてもらうコツがつかめたはずです。相手が失敗を言葉にできると、提案は押しではなく対策に変わります。迷いを消すより、迷いを決める材料に変えるのです。

  • 決めにくさを認める一言
  • 避けたい失敗を聞く一問
  • 社内説明で使える対策の言葉

次の商談で相手が「考えます」と言ったら、「選ぶとして、避けたい失敗はどこですか?」と聞いてください。その答えが、次に一緒に見る条件になります。

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営業指導歴22年。1000件以上の顧客との商談経験。1000人以上の営業相談に応じてきた。ある経営者との出会いを機に営業ノウハウを体系化。元ニートの落ちこぼれ営業を最下位グループからたった1か月で全国300人中トップに一発逆転させた。営業経験・実績に基づいた、わかりやすい営業ノウハウ・セミナーでの解説に定評がある。

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