補聴器営業は音量より使う場所と家族の声を聞く
聞こえ方の前に使う場面
相談カウンターで、お客様が声を落として言いました。「よく聞こえるのは分かりますが、家で使うところがまだ浮かびません」。隣のご家族は、早く決めたい表情です。本人は、聞こえるようになる期待よりも、毎日つけ続けられるかを気にしていました。
この場面で機能説明を重ねると、商談は補聴器同士の比較に寄ります。小さな音が拾いやすい、雑音を抑えやすい、スマートフォンとつながる。説明できることは多くても、本人が毎日どこで使うのか、その姿までは見えません。
藤本健一さん(仮名、補聴器販売店で相談対応を担当する営業担当者)は、初回相談で検査結果と機能説明を丁寧に話していました。お客様も家族も聞いてくれますが、最後に「家で相談します」と止まることが続きました。
藤本さんが順番を変えたのは、聞こえ方そのものより先に、どこで誰の声を聞きたいのかを聞くところです。食卓なのか、病院の受付なのか、孫との会話なのか。場面を一つ決めると、お客様は自分の生活で使う姿を考えやすくなります。
補聴器営業では、音量より先に家のどの場面で聞きたいかを聞きます。生活のどこで困っているかが見えると、試聴の案内も家族への説明も自然になります。
補聴器の商談は、聞こえの数値だけでなく、家でもう一度聞きたい会話から進めます。ここからは、本人と家族の言葉を分けて聞き、試聴後の反応までつなげる流れを扱います。
こんな人におすすめの記事です。
- 機能を説明しきったのに、その場で決まらず持ち帰られてしまう
- 本人と家族で言うことが違い、どちらに合わせるか決められない
- 試聴の後に何を聞けばよいかが決まっていない
まずは、音量の話から入ると止まる理由を見ていきます。
検査結果だけでは決まらない相談
藤本さんは、相談の前半で聞こえの状態を丁寧に説明していました。販売現場では、どの音域が聞き取りにくいか、どの機種なら補いやすいかを、専門用語をできるだけ使わず話します。それでも、お客様の顔は少し硬いままでした。
隣に座ったご家族は、食卓で何度も聞き返すことを気にしていました。一方で、お客様本人は病院の受付で名前を呼ばれた時に聞き逃すことを気にしていました。二人の困りごとは似ていますが、同じではありません。
ここで藤本さんが機能説明を増やすと、二人は前より比べにくくなります。必要だったのは、どの場面で使えると安心かを先に聞くことでした。補聴器の優劣を決めるのは、場面が決まった後です。
補聴器営業では、本人の困りごとと家族の困りごとが同じ席に並びます。営業側がどちらか一方だけを見て進めると、後で家族相談が長引きます。
一日のうちで困る場面
藤本さんは、購入前の聞き方を変えました。まず「どこで困りますか?」と聞きます。食卓なのか、病院の受付なのか、買い物中なのか。困る場面が一つ決まると、補聴器の話は性能比較より生活の話に近づきます。
次に、その場面で誰の声を聞きたいのかを聞きます。家族の声なのか、受付担当の呼び出しなのか、孫との会話なのか。同じ聞こえにくさでも、聞きたい声が違えば、試す場面も変わります。
最後に、いつ試すかを一緒に決めます。朝食時、通院日、夕方のテレビ前。試す時間まで決めると、本人も家族も、家で何を見ればよいか分かります。
困る場面と聞きたい声が決まると、補聴器の説明は生活の中で試す話として伝えられます。
本人と家族を分けて聞く会話
藤本さんは、この相談を受けて、次の相談では機種説明に入る前に本人と家族へ別々に聞きました。
藤本さん「いま一番困るのはどの場面ですか?」
お客様「病院の受付です」
藤本さん「病院の受付ですね。では、聞きたい声は受付の方の呼び出しでしょうか?」
お客様「はい。名前を呼ばれても気づかない時があります」
続けてご家族にも聞きました。
藤本さん「ご家族から見ると、家ではどの声が聞こえると安心ですか?」
ご家族「夕食の時の会話です。母が笑っているのに、話の中身が分かっていない時があります」
藤本さん「夕食の時の会話ですね。試す時間は、まず夕食前後にしましょう」
この会話では、病院の受付、夕食の時の会話、夕食前後という言葉を変えていません。聞こえ改善、家族コミュニケーション、試用シーンと言い換えず、本人と家族が話した言葉をそのまま使います。
私の面談で、注文住宅のコンサルタントの方が連絡の途絶えた商談を振り返ると、ご夫婦のうち主に発言していたご主人とだけ話を進めていました。私が指摘したのは、ご主人と関係ができたという満足が自己満足を生んでいる点です。決める人が複数なら、それぞれに改めて関心をもって聞くよう勧めました。家族それぞれの価値観に共感して応じる姿勢に切り替えた、というのがその方の話です。
試聴後に見る反応
補聴器は、説明を聞いた後、家で試してから決まる商品です。試聴後にどの場面が楽になったか、どこがまだ気になるかを聞いて、次の一手が決まります。
藤本さんは、試聴後に「聞こえはどうでしたか?」と広く聞いていました。今は、最初に決めた場面に沿って聞きます。病院の受付で呼び出しに気づけたか。夕食前後に家族の声が聞き取りやすかったか。質問が生活の中で具体的です。
お客様は、「病院の受付では前より気づけました。でも夕食の時は、娘の声が台所の音に混ざります」と答えました。藤本さんは、その答えをそのまま扱いました。台所の音に混ざる、という言葉が次の調整に必要だからです。
ここで別の高機能機種をすぐ出す前に、試す時間と困る場面をもう一度見ます。夕食時に台所の音が混ざるなら、食卓で座る位置、家族が話す方向、テレビの音量も関係します。
補聴器営業では、機械の調整だけでなく、家でどう試したかを聞くことが商談を支えます。
藤本さんは、試聴後の確認でも、病院の受付、呼び出しの声、夕食前後を確かめました。次回相談でこの順番から聞けば、本人も家族も前回の話を思い出せます。
反対に、「聞こえ改善あり」「雑音課題あり」とだけ扱うと、次回はまた機能説明から入ってしまいます。お客様が本当に困っていた場面が消えるからです。
藤本さんが次に聞いたのは、夕食の時にテレビがついていたか、ご家族がどの位置から話したか、本人がどちらの耳で聞こうとしていたかです。お客様は「テレビはついたままでした」と答え、次の食事から消してみると自分で決めました。機種を変える前に、試した条件が一つ動きました。
家族説明に変えた不安
購入前に家族へ説明する時も、困る場面と聞きたい声を使います。藤本さんは、見積の説明欄に目的が分かる一文を残しました。
書いたのは、「病院の受付で名前の呼び出しを聞くこと、夕食前後に家族の声を聞くことを試すための一台」です。価格だけを書くより、家族が何のために買うのかを話しやすくなります。
ご家族は、その文を見て「父にも説明しやすいです」と話しました。家族が複数いる場合、値段の話だけでは判断が割れます。困る場面と聞きたい声が見えると、家族の話し合いも具体的になります。
家族説明では、機能名よりも、本人が聞きたい会話を先に書きます。その方が、価格の理由も伝わりやすくなります。
この時、家族の不安を否定しないことも大事です。ご家族が「本当に使い続けられるでしょうか?」と聞いた時、藤本さんは「慣れれば大丈夫です」と急いで答えませんでした。
藤本さんは「使い続けられるかを確かめるなら、まず夕食前後の会話を一週間見ましょう」と返しました。家族の不安を性能説明で消そうとせず、試す時間を決め直したのです。
家族説明の一文には、購入を急がせる言葉を入れません。本人が聞きたい声を確かめるための期間として書きます。そうすると、家族も押された印象を持ちにくくなります。
補聴器営業では、契約前に急がない姿勢が信頼をつくります。本人がまだ試す場面を言えない時、家族だけが前のめりな時、試す時間が取れていない時は、申込書を出す前に確認します。
ここで一度待つと、本人が自分から「実は、病院の呼び出しがいちばん困ります」と話しはじめます。
販売店側にとっても、急がない確認は近道です。本人が家で使わなくなる不安を減らせるため、調整の予約も再相談も、前向きな話として続けやすくなります。
藤本さんは、ある相談で「今日は機種を決めず、夕食前後にもう一度試してください」と伝えました。お客様は鞄から手帳を出し、「来週の火曜と木曜に試します」と自分で試す日を書き込みました。ご家族も、その二日は早く帰ると言って、同じ欄に予定を書き足しました。
翌週、お客様は「夕食の時に娘の声が前より分かりました」と話しました。藤本さんは、その言葉を受けて、最後に病院の受付での不安だけを確認しました。
契約前の確認は、本人と家族の歩幅を合わせるためにあります。性能説明で押し切らず、困る場面、聞きたい声、試す時間を一つずつ言葉にします。
もし本人が「まだよく分かりません」と答えたら、藤本さんは判断を急ぎません。どの場面で分からなかったのかを聞きます。病院の受付なのか、夕食の時なのか、買い物中なのか。困る場面が分かれば、次に試す時間も決められます。
家族だけが購入を急いでいる時も同じです。家族の安心だけで進めると、本人が家で外してしまうことがあります。本人が聞きたい声を一つ言えるまで待つ方が、使いはじめた後の納得は残ります。
営業Q&A
補聴器営業では聞こえの検査結果から話してよいですか?
専門性を示すために、最初に数値や機能を説明したくなります。検査結果が手元にあると、なおさらそこから話したくなります。
回答
検査結果は必要です。ただし、先に生活のどの場面で困っているかを聞きます。困っている場面が見えた後なら、検査結果も本人に関係する話として伝わります。
本人と家族の意見が違う時はどう聞きますか?
本人は困っていないと言い、家族は困っていると感じている場面です。
回答
本人には困る場面を、家族には聞こえると安心な声を聞きます。どちらかを正解にせず、試す時間を一つ決めると、次回の相談で同じ場面を見直せます。
生活の会話から選ぶ一台
補聴器営業では、音量より先に生活の場面と家族の声を聞きます。困る場面、聞きたい声、試す時間が決まると、機能説明は本人が聞きたい会話と結びつきます。
- 本人が決めた困る場面の一か所
- その場面で聞きたい声の相手
- 家族と決めた試す時間
次の相談では、機種を比べる前に「どの場面で、誰の声が聞こえると安心ですか?」と聞いてください。その答えを試聴と家族説明に同じ言葉で残しましょう。
木村 守(逆転営業アカデミー 営業スキルUPコンサルタント)
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