営業の言葉遣いで商談が進む困り言葉の拾い方
困り言葉を拾う営業の言葉遣い
「昼だけ会計が詰まります」。相手がそう言った時、営業側の口から出かけたのは「処理速度を上げられます」でした。意味は近いのに、相手の言葉から少し離れた返しです。
店頭の相手は、端末性能を話したかったのではありません。昼の列、新人の操作、店長へ聞きに行く数分を話していました。そこで営業側の言葉が機能名へ寄ると、会話は商品説明へ流れます。
営業の言葉遣いは、丁寧語の量より、相手が使った困り言葉を短く確かめることから整えます。相手の表現をその場で扱うと、営業側が売りたい話ではなく、相手が今見ている場面を一緒に扱えます。
敬語を増やす前に、相手が出した言葉の位置を確認します。丁寧な言い回しと困り言葉、機能名と実際の詰まり、営業側のまとめと相手の語尾。このズレを直すだけで、会話は自然に続きます。
丁寧語だけで距離が縮まらない理由
丁寧な言葉は、相手への敬意を示します。一方で、丁寧語ばかりを重ねると、営業側の文章を読んでいるように聞こえる場合があります。相手は自分の話を聞かれているのか、提案の型へ入れられているのか分からなくなります。
たとえば相手が「昼だけ会計が詰まります」と言った時、営業側が「弊社端末なら会計効率を高められます」と返すと、意味は近くても相手の言葉から離れます。効率という言葉は営業側の言葉であり、相手は昼の詰まりを話していました。
ここで返すなら、「昼だけ列が伸びる場面を見ているのですね」と確かめます。まだ機能説明に入らず、相手の見ている場面を言葉にして返すだけです。丁寧さより先に、相手の言葉を同じ場面へ確かめると、会話は続きやすくなります。
相手の語尾を変えずに確かめる
相手の言葉を確かめる時は、営業側の解釈を入れすぎないようにします。「大変ですね」「お困りですね」と感情へ広げる前に、相手が言った事実を短く返します。
相手が「新人がレジ締めで迷う」と言ったなら、「新人のレジ締めで迷う場面ですね」と返します。相手が「店長しか分からない」と言ったなら、「店長だけに寄っているのですね」と返します。ほぼ同じ言葉で確かめるので、相手は訂正しやすくなります。
この返し方は、会話を止めるためではありません。相手の言葉が本当にその場面を指しているかを確かめるためです。相手が「そうです」と言えば次へ進めます。違うなら、その場で直してもらえます。
決済端末相談で変わった返答
篠田 葵さん(仮名、店舗向け決済端末販売業の一人社長)は、以前、端末の処理速度、月額費用、対応ブランドを丁寧に説明していました。相手は聞いてくれますが、最後は「今の端末でも何とかなるので」と返されることが続きました。
ある商談で、相手は「昼の会計だけ列が長くなります」と話していました。営業側はすぐに処理速度の説明へ入りましたが、相手が気にしていたのは端末性能だけではありません。昼だけアルバイトが増え、操作を店長へ聞く時間が詰まりを作っていました。
次の商談で返し方を変えました。営業側: 昼だけ列が伸びる場面ですね。相手: そうです。新人が支払い方法を聞きに来ます。営業側: では、端末の種類より先に、新人が迷う支払い方法を一つ見てもよいですか。
この二往復で、話は端末の性能比較から、昼の現場で迷う支払い方法へ移りました。相手は売り込まれている感覚ではなく、自分の店の詰まりを見てもらっている感覚になりました。
褒め言葉より困り言葉を拾う
営業側は、相手を安心させようとして褒め言葉を入れがちです。「すでにしっかり管理されていますね」「とても丁寧に運用されていますね」と言えば、場は柔らかくなります。
ただ、相手が困りごとを話しはじめた時に褒め言葉で受けると、困りごとの入口が閉じる場合があります。相手は「大丈夫そうに見えているなら、これ以上話さなくてもよいか」と感じるかもしれません。
困り言葉が出たら、先にそこを扱います。「列が伸びる」「店長しか分からない」「締め作業がやり直しになる」「支払い方法で聞かれる」。こうした言葉は、提案の入口です。褒める前に、相手の困り言葉を置き直します。
営業の言葉遣いでは、相手を持ち上げるより、相手が出した困り言葉を大事に扱う方が信頼につながります。
価格を聞かれた時の返し
価格を聞かれた時も、すぐ金額だけを返さない方が会話は深まります。もちろん金額をごまかすのではありません。金額を出す前に、相手がどの場面と比べているかを聞きます。
返し方は、「月額だけで見るならこの範囲です。その前に、今いちばん減らしたいのは列の待ち時間でしょうか、締め作業でしょうか」とします。価格の話を避けず、比較する場面をそろえます。
相手が「高いですね」と言ったら、「高く感じるのは月額の部分ですね」と確かめます。そこで「でも便利です」と反論すると、相手は防御に入ります。高く感じた場所を確かめると、比較対象を一緒に見られます。
価格場面の言葉遣いは、反論ではなく、相手が高いと感じた場所を短く確かめることからはじめます。
断りか迷いかを分ける語尾
営業の言葉遣いで見落としやすいのが、相手の語尾です。「今はいいです」と「今はまだ決められません」では意味が違います。前者は断りに近く、後者は判断材料が足りない可能性があります。
相手が「まだ分からないです」と言った時、営業側が「では資料を送ります」と返すと、迷いの中身を聞けません。ここでは「まだ分からないのは、費用のところですか、昼の運用のところですか」と分けます。
語尾を聞き分けると、追うべき商談と置くべき商談も分かれます。断りに近い相手へ説明を重ねない。迷いが残る相手へは、迷っている場所を一つだけ聞く。言葉遣いは、相手の状態を尊重するためにも使います。
練習は置き換え一つから試す
言葉遣いを直す練習は、全部の会話を録音して分析するところからはじめなくても構いません。最初は、自分がよく使う営業側の言葉を一つだけ、相手側の言葉へ置き換えます。
たとえば「効率化できます」を「どの時間が詰まっていますか」へ変えます。「導入しやすいです」を「最初に迷う人は誰ですか」へ変えます。「ご検討ください」を「次に見るならどの場面ですか」へ変えます。
置き換えた言葉を一回使ったら、相手の反応を見ます。返事が長くなったか、具体的な場面が出たか、担当者名や時間帯が出たか。ここを見ると、言葉遣いの練習は礼儀の確認ではなく、相手の話が増えるかどうかの確認です。
現場で変えやすいのは、説明前の一語です。「効率化」ではなく「詰まり」。「導入」ではなく「最初に使う人」。「価格」ではなく「比べている場面」。この置き換えなら、明日の商談でも試せます。
商談後の連絡文でも確かめる
商談後の連絡文でも、営業側の整った表現だけにしないようにします。相手が話した言葉を一つ入れると、連絡文は定型のお礼ではなく、会話の続きです。
たとえば「本日はありがとうございました。資料をお送りします」だけでは弱くなります。「本日は、昼の会計で新人が支払い方法を聞きに来る場面を伺いました。次回は、その場面で使う二つの操作だけ確認します」と書きます。
この連絡文は長くしません。相手の言葉、次に見る場面、確認する範囲の三つで十分です。営業側の熱意を長く書くより、相手が話した場面を短く書く方が、次回の約束につながります。
店頭確認で拾う言葉の順番
店頭で確認する時も、営業側の言葉から入らないようにします。レジ横に立った瞬間に「この端末なら速いです」と言うと、相手は端末の説明を聞く姿勢です。先に拾うのは、店の中で相手が使っている言葉です。
相手が「昼だけ詰まる」と言ったら、時間帯を確かめます。相手が「新人が聞きに来る」と言ったら、人を確かめます。相手が「店長が全部見る」と言ったら、担当の偏りを確かめます。この順番なら、営業側の説明は後からでも合います。
店頭確認では、見えた事実をすぐ評価しないことも大切です。「それは大変ですね」とまとめる前に、「昼の二十分だけ詰まるのですね」と確かめます。評価より描写が先に来ると、相手はさらに細かい場面を話しやすくなります。
返した言葉に相手が少し直しを入れたら、その直しを優先します。「二十分ではなく、雨の日だけです」と返ってきたら、営業側の仮説を下げます。相手の直しを受け取る姿勢があると、言葉遣いは表面の礼儀ではなく、現場を一緒に見る態度として伝わります。
相手の直しを受けた後は、すぐ別の機能へ移らず、直された言葉をもう一度だけ返します。「雨の日だけ列が伸びるのですね」と置くと、天候、客数、スタッフ配置の話へ自然に進みます。
店頭で拾った相手の言葉をそのまま確かめると、提案は端末紹介ではなく、現場の詰まりをほどく相談です。
営業Q&A
営業の言葉遣いを相手の言葉に寄せると、くだけすぎませんか?
相手の言葉をそのまま確かめると、営業として丁寧さが足りなく見えるのではと感じる人もいます。
回答
語尾は丁寧に保ったまま、中心になる言葉を相手側へ寄せます。「昼だけ列が伸びる場面ですね」のように返せば、くだけた印象ではなく、相手の状況を聞いている印象です。
相手の言葉で整える営業の言葉遣い
営業の言葉遣いは、敬語の正しさだけで決まりません。相手が使った言葉を短く確かめ、どの場面を話しているのかを一緒に見ます。
価格を聞かれた時も、断りに見える語尾が出た時も、すぐ説明や反論へ進まないでください。相手が高いと感じた場所、まだ決められない場所を確かめると、会話は押し込みではなく確認です。
次の商談では、自分がよく使う営業側の言葉を一つだけ、相手の現場の言葉へ置き換えてください。丁寧語を増やす前に相手の言葉を拾う。この順番が、営業の会話を自然に前へ進めます。
商談後のメモでも、きれいな敬語の候補より、相手が実際に口にした困り言葉を一つ書いておくと、次回の聞き方をぶらさずに準備できます。
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