営業で話が脱線した時は相手の相談目的を確かめる
話がそれた時に見る相談目的
商談中に相手の話が広がり、どこまで聞けばよいか分からなくなることがあります。趣味の話、社内の愚痴、前任者への不満、別商品の相談。丁寧に聞こうとするほど、本題から離れてしまいます。
桑原修平さん(仮名、ビル設備の保守契約と夜間対応の相談を担当)は、相手の話を止めるのが苦手でした。担当者から「前の業者は、連絡しても折り返しが遅かったのです」と言われると、桑原さんは「そうだったのですね」と受けたまま、前の業者の話を長く聞いていました。
相手は話してくれます。けれど、契約判断に必要な情報は増えません。桑原さんは商談後に、保守契約の条件、連絡先、急ぎ対応の範囲を聞けていないことに気づきました。話を聞いた量は多いのに、次回提案に使う材料が足りなかったのです。
営業で話が脱線した時は、遮る前に相手の相談目的を短く確かめます。話を切るのではなく、相手が何を決めたいのかに合わせます。
本題に戻す言葉を探すより、相手がその話をした理由を聞く方が自然です。この記事では、商談中の脱線を責めずに、相談目的につなげる聞き方を解説します。
こんな人におすすめの記事です。
- 相手の話を止められず商談時間が足りなくなる方
- 雑談や愚痴を聞いた後に提案に入りにくい方
- 話を遮らずに本題につなげる一言を持ちたい方
これから一つひとつ見ていきましょう。
脱線を責めると会話が固くなる理由
相手の話がそれた時、営業側は早く本題に戻りたくなります。予定していた説明がある。聞くべき項目が残っている。商談時間も限られている。そう感じるほど、「では本題に戻ります」と言いたくなります。
しかし、相手から見ると、脱線した話にも理由があります。前の業者への不満を話すのは、同じ不満を繰り返したくないからかもしれません。社内の愚痴を話すのは、決める人が別にいるからかもしれません。別商品の相談を出すのは、今の提案と関係する不安があるからかもしれません。
Web広告を提案する営業の方は、言葉遣いや声が硬く、商談の途中で相手の反応が鈍くなっていました。面談では私が、素っ気ない返事に強く問い返す癖を指摘し、言葉の調子と間合いをロープレで練習して、相手を柔らかく受け止めるよう伝えています。声の調子や大きさを意識して力みを抜き、相手が警戒を解いて私生活や過去の話まで話すようになった、と本人は振り返っていました。
桑原さんは、以前なら「それでは保守契約の内容に戻ります」と言っていました。相手はうなずきますが、少し表情が固くなります。自分の話を片付けられたように感じたのでしょう。
脱線を責めると、相手は話す量を減らします。営業側は本題に戻ったつもりでも、相手の本音は見えにくくなります。だから、まずは相手がその話を出した理由を短く受けます。
桑原さんは、前の業者の話が出た時に、こう聞くようにしました。
桑原さん「前の業者は、連絡しても折り返しが遅かったのですね。今回の保守契約では、連絡の早さを一番確かめたいですか?」
担当者「はい。故障した時に誰に連絡するかが曖昧でした」
桑原さん「連絡先の不安ですね。では今日は、急ぎ連絡、通常連絡、社内共有の順に確認します」
この会話では、相手の話を否定していません。前の業者の話を、今回の相談目的に結び直しています。
相談を進める項目
桑原さんは、話が広がった時に、相談目的、決める条件、次に聞くことの三つに分けました。この三つの言い方は、表でも営業Q&Aでも変えません。
| 脱線した話から分けること | 商談で見ること |
|---|---|
| 相談目的 | 相手がその話を出した理由 |
| 決める条件 | 契約前にそろえたい判断材料 |
| 次に聞くこと | この場で一つだけ深める質問 |
相談目的が見えると、脱線した話はただの寄り道ではなくなります。前の業者への不満なら、連絡体制が相談目的かもしれません。社内の愚痴なら、決裁者への説明が相談目的かもしれません。別商品の相談なら、比較条件が相談目的かもしれません。
相談目的、決める条件、次に聞くことを分けると、相手の話を受けたまま商談を進められます。
桑原さんは、相手の話を長く聞き続ける代わりに、相談目的を一文で確かめました。「今回いちばん確かめたいのは、連絡の早さですか?」。この一文なら、相手は自分の話を無視されたとは感じにくいです。
そのうえで、決める条件をそろえます。「急ぎ連絡、通常連絡、社内共有の三つを確認すれば、保守契約の判断に使えそうですか?」。相手がうなずけば、次に聞くことは急ぎ連絡の方法です。
話を遮らない二往復
話が広がった時は、次の二往復で受けます。
担当者「前の業者は、連絡しても折り返しが遅かったのです」
桑原さん「折り返しの遅さで困ったのですね。今回の相談目的は、故障時の連絡先をはっきりさせることですか?」
担当者「そうです。現場から誰に電話すればよいか分からないのが困りました」
桑原さん「では、最初に急ぎ連絡の窓口を確認します。次に通常連絡、最後に社内共有を見ましょう」
空気が変わったのは、担当者が「現場から誰に電話すればよいか分からない」と言った一言です。そこまでは前の業者への不満でしたが、この一言から、話は自社の連絡ルールへ移りました。この二往復で、桑原さんは相手の話を途中で止めていません。前の業者の話を続けすぎてもいません。相談目的を確かめ、決める条件をそろえ、次に聞くことを決めています。
脱線した話を受ける時は、感想を返すより、相談目的を聞く方が商談につながります。
感想だけを返すと、「大変でしたね」で終わります。相談目的を聞くと、「今回は何を決めたいのか」が見えます。営業では、相手の気持ちを受けながら、判断材料につなげることが大事です。
長く聞きすぎる癖の直し方
桑原さんは、相手の話を聞きすぎる癖も見直しました。話をよく聞くことは大切です。ただ、相手が同じ不満を何度も話している時は、商談が進んでいないことがあります。
桑原さんは、同じ話が二回出たら、相談目的を確かめる合図にしました。たとえば「前の業者は、連絡しても折り返しが遅かった」という話が二回出たら、「今回も同じ不安を避けたいのですね」と受けます。その後で、決める条件を聞きます。
相手の話を遮りたくない方ほど、全部を最後まで聞こうとします。けれど、相手は全部を聞いてほしいだけではありません。困ったことを次の判断に使ってほしいのです。
桑原さんは、話が長くなった時に時計を見るのをやめました。代わりに、相談目的、決める条件、次に聞くことのどれがまだ見えていないかを見ます。足りない項目が分かれば、次の質問も自然に出ます。
今日から使う短い一文
話が広がった時に使いやすい一文があります。
「その話を出されたのは、今回の相談で〇〇を確かめたいからですか?」
〇〇には、連絡先、社内説明、比較条件、使う場面など、相手が決めたいことを入れます。この一文なら、話を止めずに、相手の話の理由を確認できます。
この一文を使った商談では、担当者が別商品の話をはじめた時も、桑原さんは相談目的を一度確かめるだけで済みました。終盤に慌てて条件を聞き直すこともなくなりました。
また、提案書にも相談目的を残すようにしました。「故障時の急ぎ連絡をはっきりさせたい相談でした」と書くと、相手は自分の話が反映されていると分かります。
次回提案に残す確認
商談後、桑原さんは商談記録を長く書き残すのをやめました。残すのは、相談目的、決める条件、次に聞くことの三つだけです。
たとえば、相談目的は故障時の連絡先、決める条件は急ぎ連絡と通常連絡と社内共有、次に聞くことは夜間の連絡先です。これだけあれば、次回提案の入口は作れます。
提案の冒頭では、「前回は故障時の連絡先をはっきりさせたい相談でした」と切り出します。次に「急ぎ連絡、通常連絡、社内共有を分けました」と続けます。最後に「今日は夜間の連絡先だけ確認してから、保守契約の範囲を見ます」と伝えます。
この流れなら、相手は前回の話を思い出せます。営業側も、別の話題を無理に広げず、相手が決めたいことに沿って提案できます。
話し続ける相手への区切り方
相手が話し続ける時は、途中で切るタイミングに迷います。桑原さんも、担当者が前の業者の不満を何度も話した時、うなずくだけになっていました。うなずいている間は失礼ではありませんが、商談の時間は進んでいきます。
桑原さんは、区切る前に相手の言葉を一つだけ短く引用するようにしました。担当者が「現場から誰に電話すればよいか分からないのが困りました」と言ったなら、桑原さんは「現場から誰に電話すればよいか分からないのが困りました。そこが一番困った点なのですね」と受けます。
その後で、相談目的を聞きます。「今回いちばんはっきりさせたいのは、故障時の連絡先ですか?」と確かめます。この順番なら、相手の話を奪っていません。相手の言葉を受けたうえで、商談で決めることに結びます。
区切る時は、相手の話を短くまとめすぎないようにします。「連絡体制の話ですね」と言うと、相手の具体的な不満が薄くなります。「現場から誰に電話すればよいか分からないのが困りました」と短く引用すれば、相手の言葉が残ります。
この受け方に変えた後の商談で、担当者は前の業者の話を二回で切り上げました。三回目を話す代わりに、「うちの当番表を見せた方が早いですね」と言って、夜間の連絡当番が書かれた紙を机に出しました。区切るための言葉を先に用意しなくても、相手の言葉の中から相談目的は見つかります。
営業Q&A
話がそれたらすぐ本題に入ってもよいですか?
商談時間が限られていて焦る場面です。
回答
すぐ本題に入る前に、相手がその話を出した理由を一つだけ聞きます。「今回の相談では、そこを特に確かめたいですか?」と聞けば、話を受けたまま本題に進めます。
相手の愚痴が長い時はどうすればよいですか?
前の業者や社内への不満が続く場面です。
回答
愚痴を全部解決しようとしなくて構いません。「今回同じことを避けるなら、どの条件を先に決めたいですか?」と聞きます。不満を判断材料に変えると、商談の目的が見えます。
相手の言葉から作る次の質問
営業で話が脱線した時は、相手の話を責めず、相談目的を確かめます。相談目的、決める条件、次に聞くことを分けると、話を受けたまま商談を進められます。
- 脱線した話に隠れた相談目的
- 契約前にそろえる決める条件
- 次に一つだけ深める質問
次の商談で話が広がったら、「その話を出されたのは、今回の相談で何を確かめたいからですか?」と聞いてください。相手の話を切らずに、次の質問に移れます。
木村 守(逆転営業アカデミー 営業スキルUPコンサルタント)
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