営業で無料対応を頼まれたら契約前後の境目を聞く
無料対応の前に決める境目
営業で「少しだけ無料でお願いできませんか」と言われると、断りにくいものです。相手との関係を悪くしたくない。ここで引き受ければ契約に近づくかもしれない。そう考えて、つい無料対応を広げてしまうことがあります。
森本圭介さん(仮名、業務改善ツールの導入支援を担当する営業担当者)は、初回提案後に無料相談を何度も受けていました。画面設定の確認、社内説明用の資料修正、追加デモ。最初は関係づくりのつもりでしたが、正式契約前に作業時間だけが増えていきました。
森本さんが見直したのは、無料で何をするかではありません。契約前に一緒に決める境目を聞くことでした。無料で試す範囲、有料で進める範囲、社内で判断する日。この三語を先にそろえないと、善意の対応が終わらなくなります。
営業で無料対応を頼まれた時は、引き受ける前に試す範囲、有料で進める範囲、判断日を聞きます。境目が見えると、相手を突き放さずに契約前の作業を整理できます。
無料対応を断るか受けるかだけで考えると、商談は硬くなります。先に境目を決めると、相手も営業側も次の判断をしやすくなります。
こんな人におすすめの記事です。
- 契約前の無料対応が増えて時間を取られている場面
- 断ると関係が悪くなりそうで言い出せない場面
- どこから有料にするかを自然に聞きたい場面
善意で作業が増える商談
森本さんは、相手に役立ちたい気持ちが強い営業担当者でした。初回デモの後に「この画面だけ設定してもらえますか」と言われると、すぐ対応します。次に「社内説明用に資料を少し直してもらえますか」と言われ、これも受けました。
相手は感謝してくれます。けれど、正式契約の話は進みません。無料対応が増えるほど、相手は営業側がどこまでやってくれるのか分からなくなります。森本さんも、どこで有料の話に戻せばよいか迷っていました。
無料対応が悪いわけではありません。問題は、境目を決めずに始めることです。試す範囲、有料で進める範囲、判断日がないまま動くと、相手の依頼は少しずつ広がります。
境目を聞く三語
森本さんは、無料対応を受ける前に三語を聞くようにしました。試す範囲、有料で進める範囲、判断日です。
| 決める境目 | 聞く一言 |
|---|---|
| 試す範囲 | 契約前に試す作業を一つに絞る |
| 有料で進める範囲 | 契約後に扱う作業を分ける |
| 判断日 | 社内で決める日を聞く |
この三語は、後段でも同じ言葉で使います。試す範囲は契約前に試す作業、有料で進める範囲は契約後に扱う作業、判断日は社内で決める日です。途中で無償範囲、正式支援、クロージング日などへ言い換えません。
境目を聞くと、無料対応をすぐ断らなくても済みます。相手に協力しながら、契約前にできることと契約後に扱うことを分けられます。
追加デモを頼まれた時の返し方
森本さんは、次の商談で追加デモを頼まれました。以前ならすぐ予定を入れていました。今回は、境目を先に聞きました。
森本さん「追加デモはできます。先に、契約前に試す範囲を一つ決めてもよいでしょうか」
担当者「請求画面だけ見たいです」
森本さん「請求画面ですね。有料で進める範囲は、初期設定と社内向け説明でよいですか」
担当者「そこは契約後で大丈夫です」
続けて、判断日を聞きました。
森本さん「では、請求画面の追加デモを今週中に行い、社内で決める日は来週水曜で合っていますか」
担当者「はい。水曜の会議で決めます」
この会話では、請求画面、初期設定と社内向け説明、来週水曜という言葉を変えません。後で機能確認、導入作業、決裁タイミングと広げすぎると、相手が合意した境目が見えにくくなります。
無料対応の前に境目を聞くと、相手の依頼を受けながら、契約後に扱う作業も同時に確認できます。
断るのではなく分ける言葉
無料対応をすべて断る必要はありません。相手が判断するために必要な確認なら、短く手伝うこともあります。ただし、契約後に扱う作業まで契約前に進めないように分けます。
森本さんは、「そこから先は有料です」とだけ言うのを避けました。相手には冷たく聞こえやすいからです。代わりに、「請求画面の確認は契約前に一緒に見ます。初期設定と社内向け説明は契約後に進めます」と分けて伝えました。
この言い方なら、相手を拒んでいません。判断に必要な試す範囲は扱い、導入作業は有料で進める範囲として残します。
森本さんは、資料修正を頼まれた時も同じでした。「社内説明で使う一枚の見出しだけ直します。詳しい手順書は契約後に作ります」と伝えました。相手は、どこまで頼めるかが分かります。
無料対応を減らすには、断り文句より先に、契約前と契約後の境目を言葉にします。
森本さんは、判断日前に社内説明のロープレも行いました。担当者役の人に「もう少し無料で設定してもらえますか」と聞いてもらい、「契約前は請求画面の確認まで、初期設定は契約後です」と返す練習です。現場で急に言うより、先に声に出しておく方が自然に伝えられます。
判断日を置く理由
境目を決めても、判断日がないと無料対応は続きます。相手が「もう少し見たいです」と言えば、営業側はまた対応することになります。
森本さんは、追加デモの後に必ず判断日を確認しました。「水曜の会議で決める」という日があるから、そこまでに見る範囲を絞れます。判断日がなければ、次の無料対応を頼まれた時に断りにくくなります。
判断日は、相手を急がせるためだけのものではありません。社内で誰が何を見るかを決めるためでもあります。請求画面を見た人、初期設定を判断する人、社内向け説明を受ける人が違う場合もあります。
森本さんは、判断日の前に「水曜の会議では、請求画面を見て導入するかを決める、という理解で合っていますか」と聞きました。相手は「はい。初期設定は契約後で大丈夫です」と答えました。
この確認があると、会議後の連絡も短くできます。「請求画面の確認結果はいかがでしたか」と聞けるからです。
次回から変える一つの準備
森本さんは、無料対応を頼まれそうな商談の前に、三語を紙に書くのをやめ、商談の冒頭で言える一文にしました。
一文はこうです。「契約前に試す範囲、有料で進める範囲、社内で決める判断日を最初にそろえてから進めましょう」。この一文があると、無料対応の依頼が出ても慌てません。
相手が「少しだけ無料で」と言ったら、すぐ受ける前に「少しだけの中身を一つにしましょう」と返します。試す範囲を一つにすれば、営業側の時間も相手の判断も守れます。
無料対応を整理する目的は、相手との関係を切ることではありません。相手が判断するために必要な確認を残し、契約後に進める作業を守ることです。
森本さんは、この一文を使ってから、契約前の作業時間を商談ごとに記録しました。追加デモは30分、請求画面の確認は一回、資料修正は見出しだけ。数字を残すと、自分がどこまで協力したかを落ち着いて見られます。
相手にも同じ数字を共有しました。「契約前の確認は、請求画面の30分デモと一枚資料の見出し修正まで行いました」と伝えると、次に頼まれた作業が有料で進める範囲かどうかを話しやすくなります。
この確認は、関係を冷たくするためではありません。むしろ、営業側がどこまで責任をもって動くかを明らかにします。相手も、無料で頼むことと契約後に依頼することを分けて考えられます。
森本さんは、判断日の前日に「水曜の会議では、請求画面を見て導入判断をする予定でした。追加で見るなら、会議後に契約後の進め方として扱いましょう」と送りました。担当者は「承知しました。会議では請求画面だけで判断します」と返しました。
判断日を置いたことで、無料対応は終わりなく続く作業ではなくなりました。相手が社内で決めるために必要な確認へ変わったのです。
会議後、担当者からは「請求画面は問題ありません。次は初期設定の進め方を聞きたいです」と連絡が来ました。森本さんは、ここで新しい無料作業を始めませんでした。前回そろえた通り、初期設定は有料で進める範囲です。
森本さんは「初期設定は契約後に一緒に進めます。今日は導入するかどうかだけ確認させてください」と返しました。担当者は「導入で進めます」と答えました。境目を先に決めていたため、営業側も相手も話を戻しやすかったのです。
もしここで初期設定の相談に入っていたら、また契約前の作業が増えていました。判断日後の会話では、前に決めた試す範囲、有料で進める範囲、判断日をもう一度確認します。
営業Q&A
無料対応を断ると冷たく見えませんか?
相手に役立ちたい気持ちがあり、断る言葉を出しにくい場面です。
回答
いきなり断らず、契約前に試す範囲と有料で進める範囲を分けます。「ここまでは確認します。ここからは契約後に進めます」と言えば、協力する姿勢も境目も伝わります。
相手が追加で何度も頼んでくる時はどうしますか?
一度対応した後に、別の確認も頼まれてしまう場面です。
回答
次の依頼を受ける前に判断日を確認します。いつ社内で決めるのかが見えれば、その日までに試す範囲を一つに絞れます。
次に守る判断日
営業で無料対応を頼まれた時は、試す範囲、有料で進める範囲、判断日を先に聞きます。境目を決めると、相手を突き放さずに契約前の作業を整理できます。
次に無料対応を頼まれたら、すぐ作業に入らず、「契約前に試す範囲を一つ決めてもよいですか」と聞いてください。その一問が、相手の判断と営業側の時間を守ります。
木村 守(逆転営業アカデミー 営業スキルUPコンサルタント)
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