食品卸営業は価格表の前に欠品時の困りごとを聞く
店の仕込みと厨房から見る新規取引
この記事は、次のような食品卸の営業場面に近い方向けです。
- 価格表を出しても既存業者との比較で止まる方
- 飲食店から欠品や納品時間の不安を聞きたい方
- 新規取引を安売りではじめたくない方
食品卸営業では、最初に価格表や取扱品目を見せたくなります。飲食店側も仕入れ価格を気にするため、営業側は少しでも安い商品を先に出そうとします。
西村明日香さん(仮名、地域飲食店向け食品卸の営業担当者)は、初回訪問で価格表をすぐ渡していました。店長が「今の業者でも大きな不満はないです」と言うと、西村さんは値引きできる品目を探していました。
店長は価格表を見ましたが、「一度比べておきます」と答えました。西村さんは、比べてもらえれば可能性があると思いました。しかし、次の連絡では「今回は今のままで」と言われました。
食品卸営業は、価格表の前に欠品時の困りごとを聞きます。 価格が大事な商談でも、店側が本当に困るのは、仕込み、提供時間、常連客に対する説明が崩れる場面です。
この記事では、食品卸の初回訪問で価格比較に入る前に、欠品時の困りごとを聞いて提案を絞る流れを解説します。先に欠品時の困りごとを聞くと、食品卸の提案は値引き競争から離れやすくなります。
価格表で止まる初回訪問
西村さんの商談が止まっていた理由は、価格表の出来ではありません。店長が困る場面を聞く前に、価格比較に入っていた点です。
飲食店は、仕入れ価格だけで業者を変えるとは限りません。急な欠品が出た時に代替品が届くか、ランチ前に納品が間に合うか、常連客に出す定番メニューを守れるか。店側の判断には、価格以外の現場事情があります。
西村さんは、店長が「不満はないです」と言った時に、すぐ価格表を開いていました。そこで相手の言葉を受け、「今の業者で助かっている点と、困る場面がある点を一つずつ伺ってもよいですか」と聞く形に変えました。
この質問なら、既存業者を否定せずに話を進められます。店長も、今の取引を守りながら困っている場面だけを話せます。
欠品時に困る店側の場面
食品卸の商談では、欠品という言葉だけでは足りません。何が欠けると、どの時間に、誰が困るのかを聞きます。
西村さんが聞くと、店長は「金曜の夕方に鶏肉が足りないと困ります」と答えました。西村さんは「金曜の夕方に鶏肉ですね」と短く受けました。
さらに店長は「週末の仕込みがずれると、土曜のランチに響きます」と話しました。西村さんは、この言葉を聞いてから価格表を開きました。
食品卸の提案は、店が守りたい提供時間と定番メニューを聞いてから絞ります。 安い品目を先に見せるより、欠品で崩れる場面を聞く方が、提案の理由が伝わります。
会話の記録で見る提案前
西村さんは、提案前の会話を短く記録するようにしました。見るのは、価格、品目、納品時間を全部書く作業ではありません。店長が最初に困ると言った場面を残す点です。
ある面談では、店長が金曜夕方の鶏肉不足を気にしていました。西村さんは、その言葉を提案の入口にしました。
次の訪問で、西村さんは「金曜納品を優先する品目だけ確認させてください」と伝えました。
店長は「そこを見てもらえるなら話しやすいです」と答えました。店長の言葉を起点にすると、価格表は安さの一覧を超えて、困る場面を防ぐための確認資料になります。
価格表を出す前の二往復
食品卸営業では、価格表を出す前に二往復だけ会話を置くと商談が変わります。西村さんは、次のように練習しました。
西村さんが「今の仕入れで助かっている点はどこですか」と聞きました。店長は「いつも同じ時間に届くところです」と答えました。
西村さんは「同じ時間に届く点ですね」と受けました。続けて「反対に、届かないと一番困る時間帯はいつですか」と聞きました。
店長が「金曜の夕方です」と答えたら、価格表を見る順番が決まります。全部の品目を見せる必要はありません。金曜夕方に切らしたくない品目だけを先に確認します。
値引きに見える説明の違い
次の表は、西村さんが変えた説明の違いです。価格表を出す前に店側の困る場面を聞くと、同じ金額の話でも伝わり方が変わります。
| 値引きに見える説明 | 困りごとに合う説明 |
|---|---|
| この品目は今より安くできます | 金曜夕方に切らしたくない品目を先に見ます |
| 他社より単価を下げます | 週末仕込みが止まる品目だけ条件を確認します |
| 初回だけ特別価格にします | 土曜ランチに響く欠品を減らす納品順を見ます |
既存業者を否定しない聞き方
食品卸営業で注意したいのは、既存業者を悪く言う表現です。店側は、今の取引にも助かっている部分があります。そこを否定すると、店長は守りに入ります。
西村さんは「今の業者さんで助かっている点はどこですか」と聞きました。店長は「担当者が早く返事をくれるところです」と答えました。
西村さんは「早く返事があるのは大事ですね」と受けました。そのうえで、「返事が早くても、品物が足りない時に困る場面はありますか」と聞きました。
この聞き方なら、相手の選択を否定せず、足りない部分だけを一緒に見られます。営業は、取引先を奪う話にせず、店の困りごとを減らす話として進みます。
初回提案で絞る品目
西村さんは、初回提案の品目を絞りました。以前は、肉、野菜、冷凍食品、調味料を一気に見せていました。今は、店長が困ると言った金曜夕方の鶏肉に関係する品目だけを見せます。
品目を絞ると、営業側の説明も短くなります。店長は自分の困りごとに関係する部分だけを見ればよいため、判断しやすくなります。
西村さんは「今日は鶏肉と代替品だけ見ます。ほかの品目は、追加で必要な時に確認しましょう」と伝えました。店長は「それなら比べやすいです」と答えました。
初回提案は、扱える品目の広さより、相手が切らしたくない品目に絞ります。
次回訪問に残す確認
食品卸営業では、初回で全部を決めようとしない方が進む場面もあります。西村さんは、次回訪問に残す確認を一つにしました。
それは、金曜夕方に間に合わせるための発注締切です。価格表のすべてを比べるより、店側の仕込みに間に合う発注時間を一緒に決める方が、取引開始の現実味が出ます。
西村さんは「次回は金曜夕方に間に合わせる発注締切だけ確認させてください」と伝えました。店長は「そこなら厨房の担当にも聞いておきます」と答えました。
食品卸営業は、価格表をきれいに見せるだけでは決まりません。店が守りたい時間、切らしたくない品目、厨房の確認相手を聞いて、提案を店の運営に合わせることが大切です。
西村さんは、次回までに全品目の値引き表を作りませんでした。金曜夕方に使う鶏肉、代替できる部位、発注締切の三つだけを確認表にしました。店長が厨房の担当者に見せても、何を判断すればよいかすぐ分かる形です。
この確認表があると、商談の続きは安いか高いかの比較だけに戻りません。店側は、いつ頼めば間に合うか、足りない時に何で代えるか、誰が受け取るかを話せます。営業側も、取引開始後の運用まで見た提案にできます。
試し納品で見る運用
食品卸の新規取引では、いきなり全品目を切り替えない方が店側も判断しやすくなります。西村さんは、金曜夕方の鶏肉に絞って試し納品を提案しました。
ここでも、西村さんは「試しに入れてください」とは言いませんでした。「金曜夕方の仕込みに間に合うかを一度見ていただけますか」と聞きました。店長が見たいのは、取引先を変える話より、困る時間帯を守れるかどうかです。
店長は「一回なら厨房でも確認できます」と答えました。西村さんは「厨房で見るのは、到着時間と肉の状態でよいですか」と聞きました。店長は「そこです」と答えました。
この一往復で、試し納品の見方が決まりました。価格、到着時間、品物の状態を全部同じ重さで比べず、店長が困ると言った金曜夕方の仕込みに間に合うかを中心に見ます。
試し納品の後も、営業側から感想を迫りません。西村さんは「金曜夕方の仕込みには間に合いましたか」と聞きます。店長の返答を受けてから、続ける品目、やめる品目、次回確認する時間帯を相談します。食品卸営業の初回提案は、取引変更を急ぐより、店側が困る一場面を確かめる形にすると進めやすくなります。
試し納品を一場面に絞ると、失敗した時の見直しもできます。到着が遅れたのか、品物が合わなかったのか、厨房で受け取る人が不在だったのか。原因を一つずつ聞けるため、次回の提案を安易な値引きに戻さずに済みます。
営業Q&A
食品卸営業で価格を聞かれたら先に答えるべきですか?
初回訪問で店長が単価を知りたがる場面です。
回答
単価を隠す必要はありません。ただ、先に「どの品目が切れると困りますか」と聞くと、価格表を見る順番が決まります。全部を安さで比べる流れを避けやすくなります。
既存業者に不満がない店には何を聞きますか?
店長が今の取引で足りていると言う場面です。
回答
助かっている点を先に聞きます。その後で「それでも困る場面はありますか」と聞くと、既存業者を否定せずに、欠品や納品時間の不安だけを確認できます。
次回に残す発注締切
食品卸営業で価格表の前に欠品時の困りごとを聞く流れを解説しました。店側が守りたい提供時間、切らしたくない品目、厨房の確認相手を聞くと、提案の焦点が定まります。
- 価格表で止まりやすい初回訪問
- 欠品時に店側が困る具体場面
- 初回提案で絞る品目と発注締切
次の初回訪問では、価格表を出す前に「切れると一番困る品目は何ですか。その品目が切れると困る時間帯はいつですか」と聞いてください。その答えに関係する品目だけを先に見せましょう。
木村 守(逆転営業アカデミー 営業スキルUPコンサルタント)
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