営業で反論を受けた時は返す前に努力を一つ認める
反論の前に見る相手の努力
営業で反論を受けると、すぐに返し方を探したくなります。「高いです」「時間がありません」「今は考えられません」と言われた瞬間に、何とか切り返さなければと思う方も多いでしょう。
高原翔さん(仮名、法人研修サービスの導入相談を担当)は、反論が出るたびに説明を足していました。相手が「時間が取れません」と言うと、短時間で受けられることを説明します。相手が「予算が合いません」と言うと、分割や範囲調整を話します。
一生懸命に返しているのに、商談はよく止まりました。相手は黙り、最後に「一度持ち帰ります」と言います。高原さんは、反論の言葉だけを見て、反論の前に相手が何をしてきたのかを見ていなかったのです。
反論は、相手がこちらを拒んでいる言葉だけではありません。その前に、相手が何を試し、何を守ろうとしているのかが入っています。
返す前に一つ認めると、相手は「分かってもらえた」と感じやすくなります。この記事では、反論を受けた時に、切り返しの前に相手の努力を見つける聞き方を解説します。
こんな人におすすめの記事です。
- 営業で反論されると説明を足しすぎる方
- 時間不足や金額の反論を受けた後の返し方に迷う方
- 相手の反論を責めずに商談を続けたい方
これから一つひとつ見ていきましょう。
反論の言葉だけを見る危うさ
反論の言葉だけを見ると、営業側は返答の勝負に入ります。時間の不足には短時間の提案、「高い」には費用対効果、「今は考えられない」には導入時期の提案。返答の型を増やすほど、相手の事情から離れます。
高原さんも、最初は反論ごとの返答を用意していました。ところが、相手は納得しているようで前に進みません。理由を聞くと、相手は「現場がもう何度も研修を試したのです」と話しました。
ここで見るべきだったのは、時間の少なさだけではありません。相手の会社では、過去に研修を入れ、現場の協力を得ようとしていました。それでも続かなかったため、新しい研修に慎重になっていたのです。
反論の裏には、たいてい相手側の努力があります。予算を守ってきた。現場に説明してきた。過去に試してだめだった。上司に何度も掛け合ってきた。そこを見ずに説明を重ねると、営業側は相手の努力を軽く扱っているように見えます。
高原さんは、反論が出た時の最初の一言を変えました。解決策を出す前に、相手がすでにしてきたことを一つ聞きます。
「ここまでに、社内ではどのような取り組みをされてきましたか」
この一言を置くだけで、相手の返事は変わりました。「新人向けに動画を作りました」「現場リーダーに声をかけました」「昨年も外部研修を入れました」と、反論の前にあった行動が出てきます。
相手の行動が見えると、次に返す言葉も変わります。短時間でできますと押す前に、「そこまで現場の時間を守ってきたのですね」と受けられます。費用の説明を急ぐ前に、「予算を守りながら何度も試されてきたのですね」と言えます。反論対応の入口で先に見るのは、切り返し方より相手の努力です。
三つに分ける反論前の努力
高原さんは、反論前の努力を三つに分けました。予算を守った努力、時間を作った努力、現場に説明した努力です。この三つを先に見ると、反論の意味が変わります。
| 反論の言葉 | 先に見る努力 |
|---|---|
| 高いです | 予算を守った努力 |
| 時間がありません | 時間を作った努力 |
| 現場が動きません | 現場に説明した努力 |
この表は、相手を分類するためのものではありません。聞く順番を決める表です。相手が「高い」と言った時に、すぐ金額の話に入る前に、どの予算を守ってきたのかを聞きます。相手が「時間がない」と言った時に、短時間プランの話をする前に、これまでどの時間を作ろうとしてきたのかを聞きます。
高原さんは、社内説明で止まった相手に、次のように聞きました。
高原さん「現場が動きにくいのですね。ここまでに、現場に説明したことはありますか」
担当者「昨年、動画研修を入れました。最初は見てくれましたが、2週間で止まりました」
高原さん「動画研修を入れたのですね。2週間で止まったなら、今回は見る時間より、続ける場面を先に考えた方がよさそうです」
この会話では、反論に反論していません。相手の努力を聞き、その努力がどこで止まったかを一緒に見ています。すると、研修の良さを説明する前に、続ける場面の話に入れます。
相手の努力を聞くと、反論は次に確認する場所として見直せます。
労いから提案に進む順番
反論を受けた時の順番は、労い、確認、提案です。最初に「大変でしたね」と感情だけで受けるより、相手がしてきた行動を具体的に認めます。
高原さんは「昨年、動画研修を入れたのですね。現場が見る時間を作るところまで進めてこられたのですね」と伝えました。相手は「そうなんです。見る時間は作ったのですが、現場で使う場面まで落ちませんでした」と答えました。
この返事が出ると、提案の向きが決まります。ここからは、研修内容を増やす話より、現場で使う場面の話に移れます。高原さんは「今回見るのは、研修時間より、研修後に現場で一つ使う場面です」と伝えました。
ここで大事なのは、相手の発言を勝手に言い換えないことです。相手が現場で使う場面まで落ちなかったと答えたなら、後段でもその言葉の向きを短く受けます。「活用機会」「実践場面」などに置き換えると、相手が話した言葉から離れます。
相手の努力を具体的に認めると、提案は相手が進めてきたことの続きになります。
高原さんは、提案資料の前に一項目だけチェックするようにしました。「予算、時間、現場説明のうち、どの努力が一番続いていますか」。この確認だけで、商談の入り方は変わります。
予算が続いているなら、金額を守る提案にします。時間を作る努力が続いているなら、短時間の案より、続く時間帯を見ます。現場説明が続いているなら、現場が使う一文を一緒に作ります。すべてを同時に直そうとしなくて構いません。一つだけ見れば、次に話す内容が絞れます。
反論後に置く一言
反論を受けた時に使う一言は、次の形です。
「ここまでに、どのような取り組みをされてきましたか」
相手が何もしていない前提で話さないことが大切です。相手が努力してきたことを聞くと、反論の奥にある事情が見えます。
高原さんは、この一言を入れてから、商談後のメールも変えました。「研修内容をご確認ください」で終えず、「昨年の動画研修が2週間で止まった点を踏まえ、今回は現場で使う場面を一つ確認します」と書けるようになりました。
メールの一文に、相手の努力と次の確認が入ると、相手は社内で説明しやすくなります。反論対応はその場の切り返しで終わらず、次回確認の材料にもなります。
また、相手が「取り組みはまだありません」と答えた場合も責めません。その時は、何を守りたいかを聞きます。予算を守りたいのか、時間を守りたいのか、現場の負担を守りたいのか。守りたいものが分かれば、提案の順番を決められます。
急いで提案しない確認
反論が出た直後ほど、営業側は早く安心させたくなります。けれど、安心させるつもりで解決策を急ぐと、相手は「こちらの事情を聞かずに売りたいのだな」と受け取りやすくなります。
高原さんは、提案を出す前に一度だけ確認する時間を作りました。「ここまでの取り組みで、うまくいった点もありましたか」と聞きます。うまくいかなかった話だけを聞くと、商談全体が問題探しになります。うまくいった点も聞くと、相手が守りたいものが見えてきます。
担当者は「動画研修は、最初の2週間は見てくれました」と答えました。高原さんは「最初の2週間は見てくれたのですね」とそのまま受けました。ここを短く受けると、次に「では、3週目に何が止まりましたか」と聞けます。
この確認で、提案は新しい研修の売り込みから、3週目に止まった理由の確認に変わります。相手がすでに進めた2週間を認めたうえで、続かなかった箇所だけを見るからです。
反論後の商談では、相手の努力を聞き、うまくいった点を聞き、止まった箇所を一つに絞ります。この順番なら、相手の過去の行動を否定せずに、次の提案に進めます。
高原さんは、商談後の記録にも「相手がしてきた努力」を一行で残しました。次回の冒頭でその一行を読み返すと、前回の反論を蒸し返さず、前回の努力の続きから話せます。
営業Q&A
反論された直後に労うと弱く見えませんか?
相手に押し返されそうで不安になる場面です。
回答
弱く見えません。労うのは引くことではなく、相手がしてきた行動を正確に見ることです。行動を認めた後に確認すると、提案は相手の続きとして聞かれやすくなります。
相手が何もしていない時は何を聞けばよいですか?
努力を聞いても答えが出ない場面です。
回答
その場合は、守りたいものを聞きます。予算、時間、現場の負担のうち、どれを一番守りたいのかを確認します。何もしていない相手にも、守りたい条件はあります。
次回確認につなげる最初の一言
営業で反論を受けた時は、切り返しを急ぐ前に、相手がしてきた努力を一つ見ます。予算を守った努力、時間を作った努力、現場に説明した努力を聞くと、反論の意味が変わります。
- 反論前に見る、相手がしてきた努力
- 労い、確認、提案の順番
- 次回確認につながる反論後の一言
次の商談では、反論を受けた直後に、ここまでの取り組みを一つ聞いてください。その一言から、相手の努力を軽く扱わない提案に変えられます。
木村 守(逆転営業アカデミー 営業スキルUPコンサルタント)
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