営業で「試してから決めたい」と言われたら、試す仕事と判断する人を聞く
試用の申し出で確かめたい仕事の場面
商談で商品を紹介したあと、お客様から「一度、社内で試してから決めたいです」と言われることがあります。前向きな返事に聞こえますが、何を試すのかが決まらないまま貸し出すと、後日の会話は「まだ使えていません」で終わりがちです。営業担当者は、試用を断るかどうかを急いで決める前に、その人がどの仕事で使いたいのかを聞いてみましょう。
試用で大切なのは、お客様自身が確かめたい作業を言葉にすることです。使う人と判断する人が違うなら、その違いも商談中に確かめます。試用期間だけを先に決めても、お客様が購入を考えるための材料はそろいません。ここでは、法人向けの商品を提案する営業担当者を想定し、貸し出す前と返却後の会話を取り上げます。
こんな人におすすめの記事です。
- 貸す期間を先に答えそうになる、試用の申し出
- 試す作業をお客様から聞けていない状態
- 試した後に誰の感想を聞くか決まっていない商談
これから一つひとつ見ていきましょう。
「試したい」の中身を聞く前に約束しない
「試してから決めたい」という言葉には、いくつかの意味があります。購入に前向きで、実際の作業に合うかを確かめたい人もいます。使う予定の社員から意見を聞きたい人もいるでしょう。一方で、まだ購入する理由を十分に感じられず、返答を延ばすためにそう言う人もいます。どの場合かを営業側が決めつけてはいけません。
最初に「ありがとうございます。どの作業でお使いになる予定ですか?」と聞けば、お客様は試したい理由を話しやすくなります。答えが「現場で使ってみたい」だけなら、「今お使いのものでは、どの作業に時間がかかっていますか?」と続けます。時間の話が出てこなければ、使い勝手なのか、仕上がりなのか、保管場所なのか、別の気がかりがあるかもしれません。ここで営業側が勝手に評価項目を並べると、お客様が知りたいことから離れます。
試用の申し出を受けた途端に「では1週間お貸しします」と答える営業担当者もいます。しかし、普段その作業を行うのが週に1回だけなら、1週間では比較する機会が1度しかありません。逆に、毎日使うものなら、最初の数日で判断できる人もいます。期間は、試す作業の回数に合わせて相談するものです。
私のレッスンでは、お客様に商品を見せる前に、なぜ話を聞こうと思ったのかを尋ねます。プレゼンが終わったあとも、お客様がどこをよいと感じたかを聞きます。「試したい」と言われた場面でも同じです。営業側の説明を増やすより、お客様が確かめたい点を言葉にしてもらうと、試用の目的がはっきりします。
使う人と判断する人が違う場合
北村和彦さん(仮名、倉庫向け機器の営業担当者)の場面を考えます。北村さんが法人向けのラベルプリンターを紹介すると、物流会社の総務担当者から「現場で一度試してから決めたいです」と言われました。総務担当者は購入手続きを扱いますが、毎日ラベルを印刷するのは出荷担当者です。北村さんが総務担当者だけに操作を説明しても、現場での使い勝手はわかりません。
北村さんが「どの作業を試したいですか?」と聞くと、総務担当者は「出荷伝票に合わせてラベルを作るところです」と答えました。さらに聞くと、総務担当者の答えは、いま使っている機器では送り先が変わるたびに用紙の位置を直している、というものでした。そこで試す作業は、送り先が変わった時のラベル作成に絞れます。
これは説明のための架空の場面です。試用を進めるなら、普段その作業を担当する人に使ってもらえるか、総務担当者に確認する必要があります。現場の担当者が参加できないなら、操作の印象だけで購入を決められるかも聞き直したほうがよいでしょう。
「現場で一度試してから決めたいです」という返答だけでは、誰が使うのかがまだ曖昧です。出荷担当者が操作し、総務担当者が費用を比較し、責任者が購入を承認する会社なら、三者の見る点はそれぞれ違います。営業担当者が商談中に全員を集める必要はありません。ただ、誰の感想が購入判断に使われるかを確かめておけば、試用後に聞く相手を間違えずに済みます。
北村さんはここで「操作が簡単なら購入いただけますね」と結論を先取りしません。試した結果がよくても、価格や設置場所など、まだ判断が必要な条件はあります。お客様の返答が「使いやすい」なら、「どの作業でそう感じましたか?」と聞き、その感想が購入を考えるうえでどれほど大きいかをお客様自身に話してもらいます。
貸し出し前に練習したい短い会話
次は、試用を申し出られた時のロープレです。北村さんの事例とは別に、どの商材でも使える質問の順番を練習するための例です。
営業担当者「どの仕事で試してみたいですか?」
お客様「毎日の確認作業に使えるかを見たいです。」
営業担当者「今の確認作業で、特に困るのはどの場面ですか?」
お客様「担当者が交代した日は、同じ項目を何度も見直しています。」
営業担当者「その作業を普段する方にも使っていただけそうですか?」
お客様「はい。担当の二人に試してもらえます。」
話が具体的になったのは、「特に困るのはどの場面ですか?」と聞いた後、お客様が担当者の交代日を挙げた時です。わかったのは試用する仕事と実際に使う人で、判断が済んだわけではありません。次に「試したあと、どの点がわかれば購入を考えやすいですか?」と尋ね、相手の答えを待ちます。「確認が速くなるか」と言われれば、今の所要時間を測れるか相談できます。「交代した人でも扱えるか」なら、担当者が入れ替わる日に試せるかが大事です。営業側が成功の条件を宣言せず、お客様の答えから試す内容を決めます。
レッスンのクロージングでは、お客様の感想を聞き、「感じる・思う」「考える」「行動する」のどこにいるかを見ます。試用を申し出た人は、まだ考えるための材料を集めているのかもしれません。そこで「では契約ですね」と急ぐと、相手の判断を置き去りにします。試用の前に確認するのは、本人が何を確かめたいのかです。
試す作業と実施日の決め方
試用の段取りを決める時は、作業が実際に起こる日を起点にします。毎週金曜日に出荷が集中する職場なら、火曜日から木曜日だけ貸し出しても、問題の場面を試せません。担当者が交代する日を確かめたいなら、その日に両方の担当者が使える状態を用意します。試用期間の長さを売り文句にする前に、相手が困っている仕事をその期間に行えるかを確かめましょう。
使う場所にも注意します。会議室で営業担当者が操作を見せるのと、実際の作業台でお客様が操作するのでは、わかることが違います。電源、設置スペース、使用する用紙など、試用に必要なものを先に確かめます。商品によっては安全上の説明や社内の許可が欠かせません。営業担当者が現場へ勝手に機器を運び込む話にはしないでください。
比較する相手が今の機器なら、同じ仕事をどちらで行うのかを決めます。新しい機器だけを少し触って「扱いやすかった」と言う感想は、購入の判断材料として弱いでしょう。一方で、数値を測れない作業まで無理に秒数へ変える必要もありません。担当者が迷わず操作できたか、ラベルの位置を直す作業が減ったかなど、仕事に即した確かめ方を選びます。
試用後の連絡日を決める場合も、「来週あたりでどうですか?」だけでは、まだ試していない日に電話してしまうかもしれません。「金曜日の出荷作業のあとに、使った方のお話を聞ける日はありますか?」と相談すれば、相手の仕事を妨げにくくなります。連絡が取れなかった時に同じ質問を何度も送るより、実施日が変わったかを確認したほうが話は早いでしょう。
返却後の感想と理由の聞き方
試用が終わったら、営業担当者は「どうでしたか?」だけで終えず、事前に決めた作業について聞きます。ただし、最初から自社商品を褒める答えを求めないでください。「送り先が変わった時のラベル作成は、使ってみて問題ありませんでしたか?」のように、相手が試した仕事を示します。まだ使っていなければ、その理由と、もう試す予定があるかを聞きます。使っていない人に感想を迫っても判断は進みません。
相手が「使いにくかった」と答えた時は、弁解より先に、その場面を聞きましょう。設定に時間がかかったのか、用紙を替えにくかったのか、印刷後の文字が読みにくかったのかで、取るべき対応は違います。商品で直せる点なら方法を示し、直せない点ならそのまま伝えます。試用で合わないことがわかった場合も、お客様にとっては役立つ結果です。
反対に「よかったです」と言われても、すぐに申込書を出しません。「どの点がよかったですか?」と聞けば、操作のしやすさ、作業の速さ、仕上がりのどこが評価されたかを確かめられます。続いて「これを普段の仕事で使うと、何が変わりそうですか?」と尋ねると、お客様自身が導入後を考えられます。私のレッスンで扱うテストクロージングも、相手の感想を聞いてから考えを深める順番です。
試用した人の感想と、購入を判断する人の考えが食い違うこともあります。現場では便利でも、費用の承認が難しい場合です。営業担当者は「現場がよいと言っています」と総務担当者を説得するより、「購入を考えるには、ほかにどの条件を確かめたいですか?」と聞けます。試用で得た感想は判断材料の一つであり、契約を約束した証拠ではありません。
営業Q&A
試用の期間は営業側で決めますか?
お客様から「何日くらい借りられますか?」と聞かれました。ただ、使う仕事は週に何回あるのか、まだ聞けていません。
回答
貸出規定で決まった期間があるなら、まずその条件を伝えます。そのうえで、確かめたい作業が期間中に行われるかを聞きましょう。作業日が合わないなら、規定内で日程を調整できるか確認します。延長できると約束する前に、在庫や社内手続きを調べてください。
試した本人に話を聞けない時は何を確かめますか?
貸し出しを受け付けた担当者とは話せますが、実際に操作した社員は次の商談に参加できないそうです。
回答
担当者に「使った方は、どの作業を試して、何と言っていましたか?」と聞きます。伝聞だけでは操作上の問題がわからなければ、担当者を通して、本人が答えられる短い質問を渡してもよいでしょう。会う機会を作れるかは相手の都合によります。試用した社員の感想を、営業側が推測して結論にしないことが肝心です。
貸出期間を答える前の質問
お客様の試用の申し出を、前向きな返事とも断り文句とも決めつけずに受け取りましょう。まずは試す作業を一つ聞き、使う人と判断する人を確かめます。試用を終えたら、その作業で何がわかったかを聞きます。お客様自身が結果をどう受け止めたかを聞いてから、次の提案を考えるのです。
- 試用で確かめたい作業
- 実際に使う人と購入を判断する人
- 作業後に聞く感想とその理由
木村 守(逆転営業アカデミー 営業スキルUPコンサルタント)
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