困っていないお客様への営業では、今のやり方の良さを聞く
満足しているお客様との会話の進め方
紹介を終えたところで、お客様から「今は困っていません」と返され、次に何を言うか迷う方もいるでしょう。そこで不便な点を探そうとすると、相手は今のやり方を否定されたように感じるかもしれません。まず聞きたいのは、現在の方法で何がうまくいっているかです。その答えが分かれば、変えないほうがよい部分も、将来の変化に備えて確かめる部分も見分けられます。
相手が満足しているなら、提案せずに終える商談もあります。会議室備品のレンタル営業を例に、返事の仕方と、話を続けるか判断する場面をたどります。今の方法で助かっている仕事を聞けば、変えてはいけない条件が見えてきます。
こんな人におすすめの記事です。
- 「今は困っていません」と言われた後に続ける言葉
- 相手の不満を探そうとして、気まずくなった会話
- 提案せずに終える判断への迷い
これから一つひとつ見ていきましょう。
満足している相手への最初の返事
お客様の「困っていません」は、今のサービスに本当に満足しているという意味かもしれません。一方で、商品説明を聞く時間がない時や、初対面の営業担当者に社内の事情を話したくない時にも出てくる言葉です。どの意味か分からない段階で「本当は何かお困りでしょう?」と重ねると、相手に答えを強いる会話になります。
まずは「今のやり方で間に合っているのですね」と受け止めます。声を少し落ち着かせ、相手が話し終えるまで待ってください。ここで競合先の欠点を挙げたり、新製品の機能を並べたりしても、お客様は比較したいと頼んでいません。現在の方法を続けたい気持ちを尊重することから、話がはじまります。
私のレッスンでは、商品説明の前にお客様の現状を聞き、その後でどうしたいかを別に尋ねます。「今は困っていない」と言うお客様にも同じ順番が使えます。今のやり方に満足している理由が分かり、今後も変わらないなら、その日は提案しない判断も大切です。
あなたが営業する側なら、断られた直後に何を話しますか? 「一度だけ説明させてください」と頼む前に、「今の方法で特に助かっているのはどんな点ですか?」と聞いてみてください。相手が答えたくない様子なら、感謝を伝えて会話を終えます。答えてくれるなら、相手が評価している仕事の中身を知るために聞きます。
現在の方法で助かっている仕事
「問題ありませんか?」という聞き方では、「ありません」で会話が終わってしまいます。お客様が普段どの場面で助かっているかを聞けば、今の方法の価値が具体的になります。机を会場の図面に合わせて並べてくれる、発注の電話が短く済む、終了後の片づけまで任せられる。どれもお客様にとって、価格表には書かれていない理由です。
その答えを聞いたら、すぐ自社の強みへつなげず、もう少しだけ場面を尋ねます。「並べる作業を任せられると、当日はどの準備に時間を使えますか?」という聞き方です。抽象的な満足を、誰がどの仕事をする時の満足なのかまで確かめます。営業担当者が想像した便利さと、お客様が実際に評価している便利さは違うからです。
次に、今後も同じ状態が続くかを聞きます。新しい催しの予定がある、担当部署が変わる、会場の広さが変わるといった話が出れば、必要な備品も変わる可能性があります。予定がなければ、それをそのまま受け取ります。変化の予定がないお客様には、今の方法を尊重して話を終えましょう。根拠のない予測だけで商談を引き延ばしても、相手の仕事には役立ちません。
今の方法についての答えを聞き終えてから、予定の話に移ります。二つを同時に尋ねると、お客様は何から話せばよいか迷います。レッスンで現状と欲求を分ける理由もそこにあります。今後の予定まで聞けないまま会話が終わっても、無理に引き止める必要はありません。営業担当者が先に結論を出さず、答えられる範囲を相手に任せてください。
備品レンタルの商談を想定した会話
中野真紀さん(仮名、法人向け会議室備品のレンタル営業を担当)が、定期的に会議を開く会社を訪ねたと仮定します。総務担当者は「今の備品で困っていません」と言います。中野さんの会社にも椅子や机のレンタルがありますが、ここで品ぞろえを説明しても、相手には切り替える理由がありません。
この場面のロープレでは、次のように今の方法の良さを聞きます。
中野さん「そうなのですね。机と椅子の準備は、普段どのように進めていますか?」
総務担当者「会議前に、今の業者が配置図どおりに並べてくれます」
中野さん「並べる作業を任せられると、ほかの準備に時間を使えるのですね」
総務担当者「はい。受付の準備に集中できます」
相手が評価しているのは椅子の種類より、会議前に配置図どおりに並べてもらえることです。中野さんは、その良さを自社にもあると言い切る前に、どこまで設営を担えるかを確かめなければなりません。相手の返事を聞いてから、続けて次回の予定を聞くかを判断します。
中野さんが「次の会議も、同じ会場と人数で開く予定ですか?」と尋ね、総務担当者が「しばらく同じです」と答えたなら、中野さんは「今の方法が合っていますね。お時間をいただき、ありがとうございました」と伝えて終えてよいでしょう。別の会社に切り替える話が出なくても、相手の仕事に合わない提案を避けられます。
もし総務担当者が「次回は別の会場で人数が増えます」と答えたなら、中野さんはその変更点だけを聞きます。「新しい会場の机の並べ方は決まっていますか?」と尋ねれば、相手が設営を任せたい範囲を考えられます。新しい会場でも受付の準備に集中できるかを確かめてから、商品を紹介するか決めるのです。品ぞろえの説明は、その話が必要になった時で十分です。
これはあくまで架空の会話です。総務担当者が次回の予定を教えてくれても、発注が決まったわけではありません。今の業者も変更に対応できるかもしれません。先に聞くことで分かるのは、相手が重視する会場の設営と、次回の会場や人数に変化があるかどうかです。その情報があって初めて、中野さんは自社に提案できることがあるかを調べられます。
提案してよい時と引く時の違い
会話が続いたら、営業担当者は何か売らなければならないと思いがちです。しかし、「まず見積だけでも」と求めれば、相手には比較作業が増えます。見積を頼まれていない段階で価格競争へ持ち込むことも、現在の取引先への不満を探すことも避けたいところです。相手が今の方法を選んでいる理由を聞いた段階で、一度立ち止まりましょう。
反対に、人数や会場が変わるなら、お客様が不安に思う点を一つ尋ねられます。「人数が増える時、椅子の数と配置の変更ではどちらを先に確認したいですか?」のように、お客様が決める仕事に合わせた質問にします。もし別の点が気になると言われたら、その言葉に合わせます。
そこで自社のサービスが役立つと分かっても、すぐ契約の話へは進めません。対応できる会場、設営を終える時刻、追加発注の期限などを社内で確かめてから伝えます。確かめていない条件を「できます」と答えると、相手が守りたい準備の進め方を損ねかねません。答えられる範囲だけ話し、未確認の条件は確認してから連絡すると伝えましょう。
次回の連絡を約束する場合は、いつ何を確認するかについて相手の了承を得てください。たとえば会議を開く場所の変更時期が決まったら連絡してよいかを尋ねます。返事がなければ、営業担当者の都合で連絡日を決める必要はありません。相手の予定がまだ曖昧な段階では、連絡を増やすより、今の仕事を妨げないことを優先します。
お客様のほうから「御社ならどうできますか?」と聞かれた場合は、聞かれた条件に絞って答えます。会議室の備品なら、配置図に沿った設営や数量の変更に対応できるかを社内で調べます。商品一覧を一通り説明するより、相手が尋ねた点に答えるほうが、今の仕事との違いを判断してもらえます。対応できない条件があれば、その点も隠さず伝えましょう。
営業Q&A
今の業者の良さを聞くと自社の話ができなくなりませんか?
取引先の話をすると、お客様が今の業者を褒めるだけで終わるのではと心配です。自社のサービスを紹介する機会がなくなる気がします。
回答
今の業者の良さを聞くと、お客様が新しい提案でも守りたい条件が分かります。会議室備品の例なら、配置図に沿って机と椅子を並べてもらえることです。自社が設営まで担えないなら、商品が似ていても勧めないほうが誠実です。新しい会場や人数への対応で役立てる可能性があれば、その条件を確認してから紹介できます。話す機会を作ることより、お客様の仕事に合うかを先に確かめましょう。
短い返事しかない時は質問を続けてもよいですか?
「問題ありません」「予定も変わりません」と短い返事が続きます。相手の気持ちが分からないまま面談を終えてよいのか迷います。
回答
相手が話を終えたい様子なら、質問を重ねずお礼を伝えます。時間を取ってくれたことに感謝し、また相談したい時に連絡できる方法だけ案内すれば十分です。続けてよいか迷うなら、「今日はここで終えてもよろしいですか?」と尋ねる方法もあります。返事が短い理由を営業担当者が勝手に決めず、相手の希望に従いましょう。
提案を控える判断
相手の予定が当面同じなら、面談はお礼を述べて終えます。予定が変わる場合は、まず何を守りたいかを確かめます。たとえ自社に似た商品があっても、その条件を満たせるか分かるまでは勧められません。商品を紹介するかは、相手の予定と自社の対応を確かめてから決めます。
- 現在の方法で助かっている仕事
- これから変わる予定の有無
- 自社が確かめてから伝える条件
商品を紹介しないまま面談が終わっても、聞いた内容が無駄になるわけではありません。相手が会議前の設営を重視していると分かれば、後日連絡を求められた際にも、確認すべき点を間違えずに済みます。会話を終える時は、お客様が時間を割いて答えてくれたことにお礼を伝えてください。
木村 守(逆転営業アカデミー 営業スキルUPコンサルタント)
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